午後十二時の王子様

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 顔が熱くて堪らないのは、普段、仕事でも有り得ないくらいの大声を出し続けたからだろうか?  和の手が伸びてきて、おれの頬をその広い手のひらで包み込んだ。 いつも、握手をする時に熱く感じるそれが、とても冷たく思える。 「休み、取ってくれたの・・・?わざわざ、おれのために?」  おれは目を閉じたままで、震える和の声にうなずいた。 そして、告げる。 「和の、十八才の最初の日だから――。一緒に過ごしたいと思ったんだ」 「センセイ――」  和の手が離れたので、おれは目を開けた。 「じゃあ、早く帰ろっっ‼早く!」 「あ、あぁ――」  早く帰ったとしても別に、早く明日になるわけではないだろう?と、おれは思った。  しかし、和が待ち切れないことを全く隠さないで駆け出すと、黙って見ているわけにはいかなかった。 「(なぎ)⁉」 「これくらいなら、平気。大丈夫」  小走りとはいえ、骨折した左足首を心配するおれへと振り返り、和は笑う。 その鮮やかな笑顔に見惚れながら、おれも駅へと急ぎ始めた。  和と同じくらい、いや、もしかするとそれ以上に明日を、和の誕生日でもある、四月のはじまりの日を楽しみにして――。                 終
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