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おれもまたそんな和へと正直に、拒否し続けてきた一番の理由を話した。
もしも、宗司郎さんとのことがバレても、今勤めているこの病院を辞めて、他の所へと移ればいいだけだった。
しかし、和とはそうはいかない。ゲイで、未成年者に手を出したと知られたら、理学療法士の仕事には二度と就けないだろう。
そう――、おれは患者で、しかも十八歳未満の和と付き合って、そのことがバレて、やっと就けたこの理学療法士という仕事を失うことを、一番恐れていた。
そして、それが一番サイテーだと思った。サイテー過ぎて、悲しみや怒りを通り越して、笑いがこみあげてきた。
本当におかしかった。こんなおれのことを、どうして和が好きだと言ってくるのかが、本気で分からなかった。
全然、信じられなかった。
思ったままに喚き散らして泣き、またゲラゲラと笑うおれを、和は黙ってじいっと見ていた。
きっとあきれて、呆気にとられているだろうと思っていたら、いきなりその場に押し倒された。
――正直、あの時、和に何をされても、おれは抵抗しなかったと思う。
何もかもがもう、どうでもよくなっていた。
一番大切なものが仕事で、それを守るために、こんなにも荒んで汚れて。
そんなおれを、必死で好きだと言って求めてくる和をコドモを、その仕事を理由にして拒絶して――。
あの時のおれは、勝手に独りで絶望していた。
おれを見下ろす和の目も顔も、全く見えてはいなかった。
でも和は、そんなおれに四月まで、自分が十八才になるまで待つと言ってくれた。おれを、犯罪者にしたくはないからと。
――おれのことが好きだから、待つと言ってくれた。
うれしくて泣きそうになったのは、今まで生きてきて、あの時が初めてだった。
おれは和に応えようと、応えたいと思った。
そのためには、一体何をすればいいのだろうか?
おれは和と駅へと向かう間ずっと、それを考え続けていた。
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