勉強会

7/10
前へ
/39ページ
次へ
 補習と言っても、一週間毎に、各教科の問題集を決められたページ数分の解答を、解らない場合は質問を記入して、提出すればいいらしい。  おれは、まるで通信教育の対面バージョンのようだな。と矛盾した感想を抱いた。 「だったら、メールのやり取りでいいじゃん。わざわざリアルに学校行くのとか、マジメンドくせー」  高校側としては課題を出すだけだしておいて、後は独りでやっておけというのは、どうにも無責任だとでも思ったのだろうか?  いや、和本人にも周囲にも示しがつかないと考えたに違いない。 ――学校とは社会とは、そういうものだった。  ふとひらめいたおれは、全くやる気がなさそうな和にある提案を持ち掛けた。 「――じゃあさ、リアルじゃないともらえない『ごほうび』を、おれが和に出すよ」 「えっ!マジで?・・・ナニソレ?」 案の定、和は飛び付いてきた――。声のトーンが変わったのが、電波越しにもハッキリと分かった。  おれの言い方は色いろな意味でいやらしかったが、けして、うそではない。  今日も、和は前の週に解いた問題集の答えを提出し、新しい課題を受け取るためにちゃんと登校した。  そしてその後に、高校にもほど近いこのファミレスへとやって来た。 ちなみにおれは今日休みで、和から大体の時間は知らされていたので、先に来店して待っていた。  単純で、年相応に子供っぽいところがある和だったが、けして頭は悪くなかった。 大学の推薦もスポーツ枠ではなく、成績と内申書とで合否判定される一般枠でだった。  この時期に怪我をしてしまい、高校を卒業出来るか分からないのも不安だろうが、その後の進路は心配ではないか?と、リハビリ前の雑談中に、たずねたおれへと和はアッサリと、 「もう、大学の推薦決まってるから」 と答えた。  陸上での、つまりスポーツ推薦でかと、勝手に想像して黙ってしまったおれを、 「おれのレベルで、スポーツ枠はムリ」 と笑い飛ばした。  しかし、和は笑いをすぐに消して、言った。目の前のおれではなく、どこか遠いところを見て。 あれは、『未来』だったのだと、今は思う。 「でも、大学行っても、走るよ。――今度はケガしないように」  おれはその和の言葉を聞いて、じゃあ、リハビリを頑張らないといけないな!と続けたような気がする。  当の和からの返事は、 「だったらセンセイ、ヤらせてよ」 だった。  ――全く、単純なのも考えものだと思う。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加