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補習と言っても、一週間毎に、各教科の問題集を決められたページ数分の解答を、解らない場合は質問を記入して、提出すればいいらしい。
おれは、まるで通信教育の対面バージョンのようだな。と矛盾した感想を抱いた。
「だったら、メールのやり取りでいいじゃん。わざわざリアルに学校行くのとか、マジメンドくせー」
高校側としては課題を出すだけだしておいて、後は独りでやっておけというのは、どうにも無責任だとでも思ったのだろうか?
いや、和本人にも周囲にも示しがつかないと考えたに違いない。
――学校とは社会とは、そういうものだった。
ふとひらめいたおれは、全くやる気がなさそうな和にある提案を持ち掛けた。
「――じゃあさ、リアルじゃないともらえない『ごほうび』を、おれが和に出すよ」
「えっ!マジで?・・・ナニソレ?」
案の定、和は飛び付いてきた――。声のトーンが変わったのが、電波越しにもハッキリと分かった。
おれの言い方は色いろな意味でいやらしかったが、けして、うそではない。
今日も、和は前の週に解いた問題集の答えを提出し、新しい課題を受け取るためにちゃんと登校した。
そしてその後に、高校にもほど近いこのファミレスへとやって来た。
ちなみにおれは今日休みで、和から大体の時間は知らされていたので、先に来店して待っていた。
単純で、年相応に子供っぽいところがある和だったが、けして頭は悪くなかった。
大学の推薦もスポーツ枠ではなく、成績と内申書とで合否判定される一般枠でだった。
この時期に怪我をしてしまい、高校を卒業出来るか分からないのも不安だろうが、その後の進路は心配ではないか?と、リハビリ前の雑談中に、たずねたおれへと和はアッサリと、
「もう、大学の推薦決まってるから」
と答えた。
陸上での、つまりスポーツ推薦でかと、勝手に想像して黙ってしまったおれを、
「おれのレベルで、スポーツ枠はムリ」
と笑い飛ばした。
しかし、和は笑いをすぐに消して、言った。目の前のおれではなく、どこか遠いところを見て。
あれは、『未来』だったのだと、今は思う。
「でも、大学行っても、走るよ。――今度はケガしないように」
おれはその和の言葉を聞いて、じゃあ、リハビリを頑張らないといけないな!と続けたような気がする。
当の和からの返事は、
「だったらセンセイ、ヤらせてよ」
だった。
――全く、単純なのも考えものだと思う。
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