ハンドクリーム

11/11
73人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
 後はもう、話らしいはなしをしないで、おれと和とは駅へと歩いた。 三月も半ばを過ぎたというのに、まだまだ寒い。  体の芯が凍えるような冷たさはないが、吹く風はけして、暖かくはなかった。 夜になれば、なおさらのことだった。  おれは和と並んで歩きながら、今はコートのポケットに無造作に突っ込まれている和の手と、つい今さっき、おれの手首をきつく捕らえたその手と、手をつなぎたいと思った。  つないだままで、今、この道を歩いて行きたいと思った。 ――でも、出来なかった。  おれの手が、ガサガサに荒れていたからではない。 きっと和は、そんなことは全く気にしないだろう。  照れて隠そうとしても、隠し切れない笑みを、おれへと向けてくれると思った。 おれが笑い掛けたら、あの、子供みたいな笑顔を返してくれると思った。 それでも、おれはけして、そうしてはならないと思った。  四月一日を、和が十八才の誕生日を迎えるまでは、けして――。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!