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後はもう、話らしいはなしをしないで、おれと和とは駅へと歩いた。
三月も半ばを過ぎたというのに、まだまだ寒い。
体の芯が凍えるような冷たさはないが、吹く風はけして、暖かくはなかった。
夜になれば、なおさらのことだった。
おれは和と並んで歩きながら、今はコートのポケットに無造作に突っ込まれている和の手と、つい今さっき、おれの手首をきつく捕らえたその手と、手をつなぎたいと思った。
つないだままで、今、この道を歩いて行きたいと思った。
――でも、出来なかった。
おれの手が、ガサガサに荒れていたからではない。
きっと和は、そんなことは全く気にしないだろう。
照れて隠そうとしても、隠し切れない笑みを、おれへと向けてくれると思った。
おれが笑い掛けたら、あの、子供みたいな笑顔を返してくれると思った。
それでも、おれはけして、そうしてはならないと思った。
四月一日を、和が十八才の誕生日を迎えるまでは、けして――。
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