そして熊はゆく

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 気がつくと荒野を抜けていた。  いつの間に抜けていたのだろうか、驚くほどに気がつかなった。  次に見えてきたのはそこは部屋だった。明らかに矛盾しているのはボク自身が一番わかっているのだけれどそこは確かに部屋だったのだ。  ボクの背中側に窓があった。右手には木製の子ども用ベッドがあった。白いシンプルなカバーがかけられた枕の大きさから、よほど幼い赤ちゃんが寝かされるためのものなのだろうと思った。掛け布団はベースが黄色で、よく見ると愛らしくデフォルメされたひよこが描かれていた。  そのベッドの上には回転するおもちゃがあって、翼を生やした馬が何頭もぶら下がっていた。  左手には白を基調として、とって部分が赤や緑とポップなカラーで、かつ大きな丸であることから子ども向けのタンスなのだろうと思った。  そのタンスに近づいて、そっと引き出しを開けてみると、そこにはおくるみといった新生児向けの洋服が何着も入れられていた。  その一着を手に取ってみると、襟元にはちょこんとイチゴの刺繍がされていて何とも愛らしいものであった。  タンスの横には本棚があったけれど、きっと子どもが小さすぎてまだ絵本すら読めないのだろう。かなりからんとしていた。  その中で一冊、やたらと分厚い本があったので手にする。よく見るとそれは本ではなくアルバムであるということに気がついた。  表紙をめくると最初に目に飛び込んできたのはエコー画像であった。  正直なところ、どこをどうみれば人の子に見えるのかわかりはしなかったけれど、この部屋の主が、母親の胎内抱かれている貴重な一枚なのだ感じた。  こんな顔もわからない写真も大切にアルバムに飾られているほどに、大切にされているのだろう。  さてと、次のページをめくれば、そこにはこの部屋の写真が張り付けられていた。真新しい、ベッドに、タンス、空っぽの本棚、それと何故かランドセルまで写真に写されていた。よく見ると本棚の影に、箱に入れられたままのランドセルがあって、何とも気の早い親なのだなと笑いが込み上げてきた。  さて、これほどまでに愛されているこの部屋の主の顔はいったいどんなものなのだろうか。
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