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気がつくとあのウサギのぬいぐるみはボクの手から離れていた。
岩壁の向こう側にもまた川が流れていて、星一つない暗い空が広がっていた。
水面を覗き込むと、そこには”熊”が映っていた。ゆらゆらとクレヨンで塗りつぶしたような黒目に、よだれを垂らした半開きの口というなんとも締まりのない熊であった。しかし腕は大人の人間の男性のそれそのもで、何とも不気味な姿であった。
辺りを見渡すと、ボクと同じ姿をした”熊”たちがずらりとお行儀よく並んでいる。そんな熊の集団にボクは紛れ込むように並んだ。
「さあ、”光の欠片”を集めてらっしゃい」
頭の中に直接声が響いてきたかと思うと、熊たちが一斉に空を舞った。
ひとり取り残されたボクは、唖然として足がすくんでしまった。
「おや、まだだったようだねえ」
その声を合図に、ふと目の前にまたあのぼろぼろなウサギのぬいぐるみが姿を現した。
今ならはっきりとわかる。懐かしく、大好きな匂いがする。
私のゆらゆらとした黒目からは、はらはらと涙がこぼれた。
「思い出したんだね、いってらっしゃいな」
私はその言葉のままに、先に行った熊たちと同様に空を舞った。
そして”光の欠片”を探しにいったのだ。
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