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例の神社に戻ってきたところである。あの後、俺は逃げ帰るような形で病院を飛び出してきた。実際に柚希の妹と対峙して得た事実は、あまりにも奇々怪々――事実は小説よりもなんとやら、という有様であった。
溜息交じりに空を仰ぐ。もう、柚希の姿は見えない。なんてことはない、彼女は元より死んだ人間だったのだ。
あの後、柚希たちの両親が俺に気づいて駆けつけてきた。白昼夢を見ていた気分である。柚希という存在が、そもそもなかったかのように消えたためだ。当たり前なことではあるが――最初は不審がっていた両親も、柚希という名を出した瞬間、驚きを隠せないといった風に俺を質問攻めにしてきた。その空気に圧倒されながらも話を聞いていくうちに、聖柚希という人間は、既に故人であるということが判明した。
俺が見ていた「柚希」とは――考えても答えなどは出てこないが、少なくとも妹を助けたいと願っていたのは確かなようである。
「……運命、か」
結果として、故人である彼女がどうして俺に見えたのかは分かっていない。しかし、彼女は俺と出会ったことで妹を助けることができた。
「今日で殺し屋は引退だ」
携帯のカバーに挟んでいたメモを取り出し、乱雑に破り捨てる。アイツは腕のいい闇医者だが、法外な金を取っていくのがたまに傷である。
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