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大したことじゃないというのは、「御百度参りをする」ことに対する理由についてであって、彼女の妹が病気であることではなかった。
俺は思わず閉口してしまう。それを察してか、彼女は俺を手招いた。ひとまず階段を降りようというらしい。俺は一つ頷いて、彼女の後を追った。
「……貴方は」
そう、彼女は言った。
「神様は、人を救ってくれると思いますか?」
思わない――率直にそう言ってしまいたかった。その理論で言えば俺は神の対極に位置する存在である。神というものが本当にいるならば、俺の仕事をとことん邪魔するはずだろう。
しかし、と俺は顎に手を当てた。
俺のような存在がいるということは、逆に神というものもいるのかもしれない。救われなかった人間がいることが、神の証明になるのではないか――。その旨を彼女に伝えると、「私も、似たようなものです」と儚げに笑った。どういうことかと問い詰める間もなく、彼女は続ける。「でも、最後の頼みとなると、やっぱり神ですよね」
俺にはわからない感覚だ。理解はできても、そこに込められた想いまではわからない。知りようがなかった。
しかし、彼女に興味があるというのは間違いではなかった。
「……あと二回か」ぽつりと、俺はそう漏らしていた。
「え?」
「ああ、いや、二回参れば、百回なんだろう」
「ええ、まあ」
「途中からでもいいなら、俺も来ていいか?」
彼女は一瞬呆けた顔をして、そしてすぐに先ほどと同じ微笑みを浮かべた。大きく首肯して、貴方さえよければと言ってくる。
階段の終わりが見えてきた。明日も来なければならないと考えた。
「でも、どうして、そんないきなり」
「さあ、興味からかな」
変な人ですね。彼女はそう呟いた。実際のところ失礼ではあるが、暇潰しの一種と捉えていた。
「では明日も、同じ時間に来ますね」
では、と彼女は行ってしまった。
暇潰しというには不謹慎で、他人への慈善活動というには皮肉で。自己満足の一環だと思いながら、俺も踵を返した。
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