百度目の泡沫

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**********  階段を上ると、柚希の姿が見えた。こちらに気づくと、ぱたぱたと駆け寄ってきた。 「こんにちは、シイナさん」 「ああ、こんにちは」  軽い挨拶の後、本殿に向かい、賽銭箱に小銭を投げ入れる。せっかくなので、と彼女は鈴をがらんがらんと鳴らした。二礼二拍手一礼。彼女と目を見合わせて、階段の方に戻る。百度石と刻まれた石の下に、百個目となる小石を置いた。 「やっと、最後です」  そのまましばらくの間、互いに何も言い出せずなかった。風が木々を揺らし、森全体が鳴いているかのようにざわめいた。 「……病院、行ってみるか?」  俺がそう尋ねると、柚希は小さく頷いた。 「大丈夫だろ。俺は神なんか信じていないけど、運命ってのはあるんじゃないかと思ってるしな」  彼女の肩を叩きかけて、一瞬躊躇した。俺のような者がいいものだろうかと逡巡して、結局どうすることもできず、その体勢のまま硬直してしまった。 「……一緒に来て、くれますか」 「……ああ」  本来ならば殺し屋を連れて歩くなど危険極まりないことであったが、そんなことはどうでもよかった。今の俺は一般人である――せめて今だけは、そう思いたかった。正直なところ、俺自身も彼女の妹のことが気がかりだったのである。  一歩踏み出すたびに、柚希から表情が消えていく。心なしか歩みも遅くなってきている気がする。俺を気にしてか、時折こちらを見て申し訳なさそうな顔をした。 「なんか……ごめんなさい。私、緊張して……」 「そんなものだろう。ここまで付き合ったんだ、最後まで行こう」  柚希は一つ首肯して、足元に目を向けた。 **********
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