第五夜 ラーメン

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 そう言やあこの間、どっかで子猫の鳴き声がするんで窓を開けて下の路地を覗いてみたんだよ。  でも、どっから声が聞こえてくるか判らない。  オレあ、あんまりそうした鳴き声に詳しい方じゃないが、何だか籠ったように鈍く、弱々しい声だったから気になったンだよ。  表通りなら車の往き来も激しいから、そんな声聞こえやしないだろうが、オレのアパート前は時折通る車さえ居なきゃあ静かなもンだからな。  路地を行く通行人も鳴き声を気にしてる様子だったが、どっから聞こえてくるかはやっぱり判らないようだった。  気にするヤツは居るには居るが、どっから聞こえてくるかを確かめようてえ奇特なヤツは一人も居なかった。  猫の声なんて、聞こえて来たってそう不思議でもないしなあ。  そのうち、ひとりのオバさんが通りがかり、声を聞いて立ち止まった。  その弱々しい声を殊更に気にしてる様子だったよ。  そのオバさんは他の通行人のように去ってしまう事なく、聞き耳を立てて猫の所在を探ってるようだった。  と、オバさんは、おもむろにある場所に視線を留めて、まっすぐに向かった。  それはゴミの集積場で、オバさんが向かったのはいくつも積み重ねられたゴミ袋の中のひとつだった。  そのポリ袋は口をきつく結んであるらしく、二階の窓から覗く遠目のオレからも、オバさんが苦労して結び目をほどこうとしているのが判った。  やっとの事で口をひらくと、中から3匹の子猫が現れたんだ。  ビックリしたねえ。良く見えなかったが3匹ともぐったりしていたよ。  オバさんは「まったく、何てコトするんでしょ!」と憤りながら子猫を抱き上げた。  それからキョロキョロと何かを探すように周りを見ている。
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