日常Ⅰ

2/2
前へ
/4ページ
次へ
放課後、長い午後の授業が終わり待ちに待ったCDショップだ。 「CDのために午後の授業めちゃくちゃ頑張れた…」 「小春はいつも頑張ってんじゃん」 他愛もない話をしながらCDショップへと足を運ぶ。 「えへへ…。そう言うけど絵里ちゃんには全然勝てないんだよな…」 絵里ちゃんにはちゃんとした夢があって家族もそれを応援してる。 それもあっての事だろう、絵里ちゃんはいつもクラス5番以内。 比べて私は下から数えるの方が早かったりする。 言い訳なのは分かってるけど、自分の明確な目標がある絵里ちゃんに親の言いなりの私が敵うわけがない。 人と比べってどうしようもないのに、ついつい比べては羨ましくなってしまう。 なんて嫌な性格なんだろう…。 そうこうしているとCDショップに着いた。 「私、レジで受け取りしてくるね」 そう絵里ちゃんに言い、私はレジへと急いだ。 誰かに取られる訳でもないのに自然と早足になった。 「すいません。お願いします…」 と、商品の引き換えに必要なレシートを店員さんに差し出すと 待ちに待ったSlight hopeのCDが手元に。 お会計を済まし、また早足で待ってくれている絵里ちゃんの元へ戻った。 「買えた!買えた!外で開けていい?」 今すぐ曲が聴けるわけじゃないのは分かってるけど歌詞カードだけでも、ジャケットだけでも見たくてたまらなかった。 だって、受け取ってすぐにお会計だったから店内でゆっくりジャケットを見る暇もなかったのだから。 「分かったから!落ち着け!とりあえず出よう!で、あっちの邪魔にならない所で開けなよ 」 2人で忙しなくCDショップを後にすると 絵里ちゃんは呆れながら壁際に誘導してくれて、私はそこでショップの袋からワクワクした気持ちでCDを出した。 念願のご対面だ。 _人といくら比べても僕は僕だ 帯に書かれた短な一文は真っ直ぐ私の心に刺さった。 たった一言。 それだけなのに私は「君の気持ち分かるよ」って言って貰えた気がした。 そっとCDケースを開けると今まで見たことある有名なアーティストのしっかりとした歌詞カードとは違って薄っぺらい白黒印刷の紙。 「これは、こういうデザイン…なの?」 と、隣でその歌詞カードを見つめる絵里ちゃんに 「たぶん、でもお宝には違いない」 と自信満々に答えた。 私にとってはお宝だ。 きっとそう。 さっきの帯の一文だけであんなに暖かい気持ちにさせれくれたんだ。 それがいっぱいいっぱい詰まってるなんて、お宝以外に何と言えばいいのか私には分からない。 「あ、公式Twitterあるんだ…!」 CDの中に入っていたQRコードを目に慌ててスマホを取り出した。 「知らなかったんだ」 と、意外と言わんばかりに言う絵里ちゃんに「情報がなかなか集めるの難しくて…」とQRコードの読み取り作業開始を必死にしながら答えた。 Slight hope Office と書かれたアカウントをフォローするとある情報に私は目を疑った。 「え、絵里ちゃん…」 スマホを絵里ちゃんに見せる。 内容はSlight hopeのライブ情報。 「来週の金曜日?このライブハウスの場所この近くじゃん」 なんと、他のバンドのゲストで急遽ライブが決まったとの事だった。 「…行きたい…」 「行けばいいじゃん。…ついて行くから、ね?」 行きたいけど1人は不安だという気持ちを汲んでくれたのであろう。 「ありがとう」 絵里ちゃんにお礼を言うと 「小春が楽しそうだからね」 と、優しく笑って返してくれた。 …いつも羨ましがってばかりでごめんね。 私には勿体ない優しい、大切な友達だ。 絵里ちゃんもライブに一緒に来てくれることになり、さっそくチケットを申し込んだ。 「え、先着なんだ。抽選じゃないんだ」 絵里ちゃんは、妹さんが人気のアーティストのファンでよくついて行ってあげているらしく、システムの違いに驚いていたけれど 私は全くそういうのに疎く、違いが全く分からなかった。 整理番号4、5 「ひ、1桁!?えっ、え?」 嬉しさと戸惑いで騒ぐ私の横で 「大丈夫なの?」 と不安の声を漏らす絵里ちゃん。 「大丈夫!」 と、なんの根拠もない自信があって絵里ちゃんに何回もそう言うと笑われた。 そして、初めて私は憧れのSlight hopeの演奏を聴くべく ライブハウスという未知なる世界へ足を踏み入れる切符を手に入れたのでした。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加