出会い

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出会い

「ちゃんとご飯食べてる?食べにおいで」 と、気にかけてくれる近所に暮らすおばあちゃん。 おばあちゃんのご飯は美味しい。 でもおばあちゃんの口癖は嫌いだ。 「健は凄いね。小春も頑張らないと」 弟と比較するその言葉は呪いだ。 頑張ってるよ、私だって頑張ってる。 …どこまで頑張れば認めてもらえるの? 毎日必死に勉強したって私の中学の時の最高順位をあっさりと抜かれてしまって 努力したって結果が全てだとお父さんから怒鳴りつけられて…。 それでも頑張って私が得るものってなんなんだろう? 「…ごちそうさま。勉強しに図書館行ってくる」 逃げるようにおばあちゃんちを後にした。 嫌いなわけじゃないんだ。ただ、あの言葉からは逃げたくなる。 「頑張らなきゃ。もっと頑張らなきゃ。」 逃げたいと思うのに、自分でも呪いの呪文を唱えてしまう。 それで生まれるのはやる気ではなく計り知れない不安だけだ。 近所の図書館の学習室。 家やおばあちゃんちが居ずらい時によく利用する。 かと言って勉強がすごく捗るわけではないけど…。 必要な予習復習を済ませ、帰ろうとした時に親子連れを見かけた。 お母さんが小さな子供に本を読み聞かせてあげていた。 「いいな…」 ため息のように言葉が漏れた。 私にあるのは「読んで」とせがんで「邪魔だ」と怒鳴られた記憶。 「…気分転換にカフェでもよろっか」 自分を励ますように言って図書館を出た。 少し歩いた所にあるカフェに立ち寄るとちょっとだけ奮発してケーキセットを頼んだ。大好物の苺のショートケーキ。 お店には有線が流れていて、それをぼんやりと聴いていた。 ある曲のワンフレーズが耳に留った。 『 上手くいかない日だってあるし、かけられたその頑張れが辛い』 「頑張れが…辛い…?」 なんだ、この歌詞。 初めて聴く曲。聴きなれないボーカルの歌声。 『誰もが認める人間にはなれないけど昨日の自分を超えられるように』 気づけばその曲に感動して泣いていた。 寄り添ってくれるようで、すごくあたたかい。 ずっと欲しかった言葉がそこにはあった。 ずっと理解して欲しかった私の気持ちが歌になっていた。 誰の曲だろう。 もっと聴きたい。 聴けば、私は救われるんじゃないかって確信はないけどそう思った。 必死にスマホで歌詞を打ち込み検索をかけた。 アーティストの名前が知りたい。 歌詞を書いてる人の名前が知りたい。 もっといろんな曲を聴きたい。 「なかなか出てこない…」 必死に画面をスクロールした。 「あった…Slight hope…」 ”僅かな願い”と言う意味を持つ名前の インディーズのエモーショナルロックバンド。 「エモーショナル…ロックバンドってなに?」 と、すかさず検索した。 「感情表現を重視しているバンド…のこと…」 気づけば夢中でSlight hopeと言うバンドの事を調べていた。 情報はかなり少ない…。 インディーズなんだ。あんなにいい曲なのに。デビューしてないんだ…。 「エールを贈る」だとか「頑張れ君ならできる」とかそんな曲はたくさん溢れているけど「頑張れが辛い」と歌った曲は他に知らない。 「作詞作曲…ギターボーカルがしてるんだ…ユウさん…か」 男性4人バンドってこと。 曲はSlight hopeのギターボーカルのユウって人が作ってること。 後、バンドの公式サイトを見つけたけど、更新されてるのかな…。 極わずかな情報。 だけど彼らの事を知るために過ごした時間は、遊園地に行った時よりもワクワクした。 私はあっという間にこのロックバンドに心を奪われたのだ。
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