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私はご主人様のお役に立つために生まれてきました。
私が作りだされ、起動してから九十九年と十一ヶ月二十九日が経ち、あと数時間で百年となります。
私を作ったご主人様は私が目覚めた時、こう言いました。
「よく聞きなさい、ケイス。もし、今後百年でお前が心を思い出さなければその体は錆つき、朽ち果てるだろう」
ご主人様がなぜそんなことを言ったのか、私には分かりません。
おかしな話ですよね。機械である私には心などありません。私は体内の記憶装置に組み込まれた基本行動パターンを実行しその結果によって学習。新たに行動パターンを追加し、より最適な行動をとり、最適な言葉を発するだけです。そこに心などはありません。
もし仮に言うとしても、心を手に入れる。心を見つける。などと言うべきなのです。ですが、ご主人様は思い出せと、そう仰っておられました。
それが、私には不思議でたまりませんでした。どうしてそのようなことを仰ったのか、聞いたこともありますが、ご主人様は答えてはくれませんでした。
ご主人様の奥様はもう三十年も昔に帰らぬ人となりました。それから、長い年月が経ち、ご主人様は自身の体の自由が利かなくなりベットの上から動くことができなくなってしまいました。
ご主人様の体から伸びる無数の管はまるでご主人様の正気を吸い取っているかのように、ご主人様の身体は日に日にやせ細っていきました。身体は骨と皮だけとなり、もう自力で起き上がる力も残ってはいません。
その目は光を映すこともできなくなり、私の姿も、おそらくもうほとんど見えてはいないのでしょう。ですが、ご主人様はまだ聴力の残っている耳と、掠れた声で私と会話をすることはできます。
その会話だけが、私にできるお手伝い。
「ケイス」
「はい、何でしょうか」
ご主人様は日向に配置されたベッドに横たわったまま虚空を見つめながら、私の名を呼びます。
「今日も……話してくれないか……いつものように……話を……」
「はい。ご主人様」
私は外で干していた洗濯物を畳む手を止め、かすれて今にも消えてしまいそうなご主人様の声に応えます。立ち上がり、ご主人様のベットに腰掛け、ご主人様の細い手を優しく包み込みながら話します。
「そうですね。では、今日は私とご主人様との思い出のお話をいたします」
「あぁ……」
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