機械人形の涙

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   私はそこまで話すと、ご主人様の手を両手で包みご主人様へ問う。 「ご主人様。これが、貴方が望んだ私なのでしょうか?」  私には分かりません。私は、ご主人様が望んだ私となれたのでしょうか。  答えてください。 「……そうか。やはり、心を、思い出してはくれないか……」  ご主人様はそう、衰弱し掠れた声で呟く。その声に込められた感情は、失望と、悲哀。  どうして。  私は最後までご主人様の思いに応えられないのでしょうか。  ご主人様の手から伝わる鼓動が、弱まっていく。もう、ご主人様に残された時間はないようです。 「思い出す……とは、どういうことなのですか?ご主人様。私は……」  私はわかってます。ご主人様にとっての一番の望みは、私が思い出すことなのでしょう。ですが。私にはその意味が分からないのです。 「……」  体を動かそうとすると内部鉄骨格の関節が軋み、人工皮膜が剥がれていく。もう、私にも時間がないのですね。声を出す度に身体は錆つき、手足は石のように硬くなる。 「ご主人様、どうして……私を、作ったのですか?」  なぜですか。教えてください。私はご主人様のお役に立つために作られたのではないのですか。私はなんのために。 「お前は……私達の……大切な……」  ご主人様はそれだけいうと、ゆっくりと瞼を閉じて深い、深い眠りへと落ちていきました。 「ご主人様?」  もう、ご主人様の手からは鼓動が聞こえません。  すみません。ご主人様。私はやはり失敗作のようです。ですが、最後の時はお側でお仕えすることを許してくださるでしょうか。  私はご主人様のそばで朽ち果て、動かぬ人形として寄り添うのでしょう。今の私にとって、ご主人様のためにできることはそれだけです。私は自身の役目を遂げ動くことをやめ、その終わりの瞬間を、今かと待ち。 「……っ」  気づかぬうちに私の頬を、涙が伝っていました。 「これは……何ですか?」  涙など、機械人形に不要な機能です。それと同時に、喉の奥から熱いものがこみ上げてきます。この感覚は、一度学習したもの。苦しみに一番近いものでした。 「……」  涙とともに、私の体からある記憶が蘇ります。  記録された映像が逆再生するように、瞼の裏でご主人様と過ごした日々が、初めて機械人形として目覚めた瞬間が、そして本来あるはずのない目覚める前の記憶までも遡っていく。 「これは……」
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