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《ニュータイプ#2》
「じゃあな、新井」
最後のこづかい稼ぎが終了する。あとは鍵の確認を松本がしっかりやってくるのを待つだけだ。おれはふたつめのパン──ジャムのそいつに取りかかりながら、海の絵と空気しか入っていないランドセルを肩へかけた。
「なんだ。教室へ戻らないのか」
ぼうっと突っ立ったままおれを見ている新井にいった。
「さっきから気になってたんだけど、給食のパンじゃないよね、それ。今日、パン食でもなかったし」
親指以外をグーにした右手で背中のほうを指した。
「くじゃく屋?」
頷き、三分の一ほどにちぎったあんパンを新井に勧める。
「ちょこっと抜けだして買ってきたんだよ。くそまずいパンしか置いてねえんだけどな、あそこ」
新井に『いらない』といわれたそれを口のなかへ放りこむ。
「今日の給食、いつもよりおいしかったよね。特にプリン」
「そうか。おれはまだ食わないで残してある」
「全部?」
「ちがうちがう、プリンだけだ」
とてもじゃないが食う気になれなかった今日の給食=プリン以外のそれ。ソフト麺、ケチャップスープ、ハンバーグ、切り干し大根。どれもこれも天然スパゲティーを思わせるものばかり。となりの席の女子が、馬鹿みたいに赤いスープのよそられた器へソフト麺をぶちこんだときに吐きけがきて、皿に乗っかったハンバーグを先割れスプーンでぶっ刺した瞬間に胃が暴れだした。牛乳一本じゃ、さすがに腹がもたない。
窓辺へ移動し、空になったパンの袋をサッシの溝へ押しこんだ。視聴覚室にはなぜかごみ箱が置いてない。新井がおれのことを『変わってる』といった。どこでそんなふうに思うのかを聞く。
「そうだなあ⋯⋯怖いのかそうじゃないのかよくわかんない。いつもケガしてるし、だけどこうやって欲しいもの用意してきてくれるし、でもガンダム知らないからまちがえるし、今日はなんだか気前がいいし、給食の後にすぐパン食べてるし」
まとめるとつまり『ガンダムをよく知らない、傷だらけで大飯食らいのかっぱらい』ということか。そんなやつは探せばどこにでもいる。おれからしたら目の前のこいつや聖香のほうがよっぽど変わっていた。
「きっとニュータイプだね」
「なんだそりゃ」
「あのね、ニュータイプっていうのは今までの常識を──」
「いや、説明しなくていい。たぶん、なんとなく、わかる」
次の注文、いいかな──おれたちは破られることが決定している約束を交わしあい、それから別れた。
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