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確かにそうだ。大鷲部長も『都市伝説だ』と断っていたほどなのだ。
問題は、だ。
『その事がバレてしまった』事だ。
もしもそれが隠蔽されて期待感のままであれば、その血液には膨大な価値があっただろう。しかし、それが幻想に過ぎないと分かってしまえば‥‥
とりあえず、もはやビジネスとして成立することは無いだろう。しかも、これだけ多くの目撃者が居るのだ。
「あーあっ!クソッタレめ‥‥! これだから血竜会はクソなんだ‥‥全く、やってらんねーぜ!おい、帰るぞ!」
革ジャンを着込んだ亜人が引き上げを始める。ブラッディ・ファイヤーズのメンバーだ。
「‥‥おい、血竜会の。『この落とし前』どうするのか、チャンと考えとくように、親分サンに言っときな」
サングラスにスーツを着込んだ男が、若井の前を通過していく。亜人同盟の連中である。
それを見て、他の亜人達も続々と悪態をつきながら引き上げを始めた。
「くそ‥‥くそ‥‥」
血竜会の若井も、ガックリと肩を落としたまま、ハヤト達の方を省みることもなくすごすごと引き上げていった。
そして、後には。
ハヤトと、ユリナと、そして獣化したままの権兵衛だけが残された。
「あの‥‥へへ‥‥あの、これは、旦那、‥‥その‥‥」
権兵衛が後付さりをしている。
「おいっ‥‥! 分かってんだろーなぁ!」
ハヤトの脇下から、S&W・M29が引き抜かれる。
その銃口はしっかりと、権兵衛の額に向いていた。
「いやっ!待ってくだせぇ! これは、その‥‥! ホンの出来心なんで! どうぞ、ご勘弁を!」
権兵衛は哀願しながら、ヘナヘナと床に座り込んだ。
ユリナは一瞬、ハヤトを止めようかと考えてから、ハッと思い出した。
『敵意を持って獣化すれば、それで罪は成立する』
ハヤトはそう言っていた。
『そこを赦したら、人間界は保てないのだ』と。
だとすれば、例え『失敗した』としても権兵衛の罪は成立した事になる。
ハヤトの性格からして、それを見逃す事はあるまい。
ユリナは覚悟を決め、目を背けた。
とりあえず、いくら悪い事をした亜人とは言え2度も『撃ち殺される瞬間』を見たくは無かったからだ。
ドゴォォォォ‥‥ン
M29の咆哮が、暗いホールの中を突き抜けていった。
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