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「ようこそ、亜久里ユリナさん。こちらへどうぞ。私が亜人検察庁特捜部で責任者をしている大鷲です」
大鷲部長が、応接室にユリナを迎入れる。
「‥‥はじめまして、亜久里ユリナです。今回は色々とご迷惑をお掛けしました」
ペコリ、とユリナが頭を下げる。
「いや‥‥アナタ自身には何の罪も無い話です。反対に、アナタが勇気を持って行動してくれなれば重大な犯罪が見過ごされるところでしたから。特捜部を代表して大いにお礼を申し上げたい」
そう語ると、大鷲部長はユリナに着席を促した。
「どうぞ、そう堅っ苦しくなさらずとも結構です。何しろだいたいの事情は芳倉氏から聞いてますので。まぁ‥‥事情聴取と言っても形式だけのものですから。それよりも‥‥」
大鷲部長が言い難そうに言葉を切る。
「あの‥‥父はどうなるのでしょうか?」
心配そうにユリナが尋ねた。
「亜久里氏ですかな? それは‥‥今後の捜査次第でしょう。ただ、何れにしろ『無罪放免』とは行かんでしょうから、グループの代表を続けることは難しいようでしてね。私のところに入った情報では、主な株主と銀行団の間で『社長解任』で話が進んでるようです」
大鷲部長はユリナと目を合わせないようにしている風にも見える。
「‥‥事件の責任を取らせる、という意味ですね」
「まぁ‥‥当然『それ』もあまりますが、それよりも『業績』の方が問題のようで。お父上はワンマンな傾向があるようですが、それが上手く行ってないせいで業績が厳しいとか。
失礼だが経営陣はお父上の御首を差し出すことで、銀行団から支援を受けたい意向のようです」
「‥‥。」
ユリナは黙って聞いていた。
「ただ、そうなると問題があります。お父上はそれでも大株主でいらっしゃいますから、ヘタな後任をつけると『院政』を敷かれる危険がある。そうなると元の木阿弥ですから銀行団はそれを恐れています。
なので、後任者はお父上に『実直な意見が言える人』である必要があります。現時点で『それ』が可能なのは‥‥先程も申しましたが『勇気を持って』お父上を諌められた『ユリナ』さんだけかと‥‥」
「それは‥‥亜久里の経営陣から私への『伝言』なのでしょうか?」
突然に『大企業グループの後任になれ』と言われて実感があるワケもなく。淡々とユリナが問い直した。
「いえ。あくまで私の『私見』に過ぎないと申し上げておきます」
当然、そんなハズもなく。それはユリナにも理解出来ることだ。
「‥‥そうですか」
ユリナの顔が曇る。
無論、ここで「イヤです」と答えるのはユリナにとって簡単な話であろう。
だが、亜久里にはグループ総勢数万の従業員が居て、それとその家族の生活が掛かっているのだ。
どちらにしろ安易な事は言えないだろうと、大鷲部長は察知した。
「ま‥‥一度、よくお考えになることですな。私から言えるのはそれだけです。ああ、調書は私の方で適当に合わせておきますから御心配なく」
そう言って、大鷲部長は頭を深く下げた。
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