獣化

1/2
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

獣化

ハァ‥ハァ‥‥ 権兵衛の息遣いが、次第に荒くなってくる。 「へへ‥‥『来た』‥‥来たぜ‥‥見ろよぉぉぉ! お前らっ! 散々アッシを馬鹿にしやがってよぉぉ! これがっ!アッシがっ!伝説の神獣化する瞬間だぁぁぁ!」 権兵衛の絶叫が轟く。 もはや、誰もその場を動けなかった。 恐怖を感じすぎる事で、足が止まってしまうのだ。 そして。 数十秒が経過した。 「おい‥‥見ろよ、ま、まさか‥‥」 亜人側の外野から、声が漏れる。 『それ』はこの場の誰もが思ったことだ。 完全に予想外の光景が、そこには有ったのだ。 「え‥‥まさか『何も変わってない』‥‥とか‥‥?」 どう見ても、権兵衛の『獣化』は先程から何も進んでいないように見える。 「あ‥‥あれ?」 当の権兵衛も、何だか拍子抜けのようだ。 周囲がどよめく。 「い、いや待て! 外見は変わってなくとも、中身が強化されている可能性はあるぞ!」 若井が周囲の亜人に警戒を呼びかける。 「くそっ!そんなハズぁねぇ! 見ろ、パワーは大幅に強化されてて‥‥!」 獣化したまま、権兵衛が近くのコンクリート柱をブン殴った。 ゴ‥‥ン! 鈍い音だけが響く。 「いっ‥‥痛ってぇぇぇぇ!痛てぇよぉぉぉ!」 権兵衛が、握った拳を抱えて転げ回る。 「馬鹿なっ!」 若井が怒鳴った。 「そんな‥‥そんな馬鹿なっ!『1/32の血(フェアリーブラッド)』は、我々亜人を『更なる高み』に連れてってくれるのでは無かったのかっ!」 「‥‥残念だったな‥‥。だが、ある程度は予測できた事だよな? だって、誰も試した事がねぇんだからよ」 ハヤトは立ち上がりながら、転んだ時についた服のホコリを払い落としていた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!