ウージ畑とゆうれいと

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「うわぁっ!」  驚いて仰け反った。サトウキビの茎がしなりながら、俺の体を支える。 「ゆ、ゆ、幽霊?」  見たことのない少年が立っていた。俺や夏生よりも、少しだけ年上に見えるから、中学生かな? 服も手足も、赤土で汚れ放題。色白の顔には、しかめられた眉と、不機嫌そうなヘの字口。瞳には、失望と、苛立ちと、あと、悲しみがある気がした。奈落へと続く井戸みたいに真っ黒で……。 「バカ、俺は幽霊じゃねえし! 脅かすな」  低くかすれた声は、真昼に吹く南風みたいに、のったりと倦んだ響きを持っていた。 「そっちこそ幽霊じゃねえの?」  腕組みして、俺を見下ろす。思わずたじろぐ。でも、少年の後ろから、夏生が顔を覗かせているのに気づいて、なんだかおかしくなった。夏生は好奇心が勝ったのか、逃げ出さなかったみたいだ。 「違う。自分はちゃんと生きてるし! 翔っていうんだ。そっちは夏生」  夏生を指すと、少年は振り返った。そこで初めて夏生に気づいたのか、「うわっ」と声をあげた。少年の声に、夏生もビビって固まっている。 「夏生と俺は双子なわけ」  説明すると、少年は俺と夏生を交互に見た。それから、「フヒャハハッ!」と、酔っぱらったオジィみたいな声でひとしきり笑った。 「なるほどな。確かにおまえらそっくりだ」 ヘラヘラして夏生に近づく。夏生は身構えるけど、少年は、おもいがけず優しく夏生の頭を撫でた。 「なあ。あんたは、なんでサトウキビ畑でこそこそ隠れてるわけ?」  俺が聞くと、ムッとした顔になる。 「人聞き悪いな! それにガキのくせに、俺をあんたって呼ぶな! 俺は鉄平っていうんだ」  罵るように言い返してきた。 「じゃあ、鉄平は、どっから来たさー?」 「神奈川から。蒼とこの島で待ち合わせしてたんだ。もう島に来てていいはずなのに」  鉄平はポケットに手を突っ込んだ。
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