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鉄平は寝ていた。ウージ畑の中で、仰向けで、赤ん坊のようにぐっすり。蠅が頭の周りをブンブンと飛び回っているけど、ピクリともしない。
正面から、潮騒のような音がザザザと迫って来た。サトウキビがいっせに波打つ。にわかに鉄平が、パッと目を開けた。横になったまま、俺と夏生を不思議そうに見つめる。
「俺のこと、呼んだ?」
俺が首を横に振ると、あからさまな落胆の表情を浮かべた。のろのろと体を起こす。しばらく肩を落としていたけど、思い出したように身を乗り出した。
「食い物持ってきたか?」
おむすびを取り出すと、「サンキュ」と引っ手繰るようにして掴んだ。大口を開けて噛みつく。バクリ。バクリ。三口で食べてしまった。それから、喉元を叩きながら手を差し出すから、水筒を渡す。喉を反らして、唇から水を垂らしながら、ゴクゴクと呑んだ。
「よしっ。飯も食ったし、蒼を探しに行くぞ」
背筋を伸ばし、立ち上がった。夏生が鼻を摘まみながら俺を見る。俺も同感だった。
「先に、体を洗ったほうがよくないか?」
夏生も小声で、「便所みたいな臭いがする」と鼻を摘まんだ。
「大げさだな。そんな臭くねえよ」と言いつつ、鉄平は急に居心地悪そうに自分の体を見回すと、腕やシャツをスンスンと嗅いだ。
「……クソしたとき、引っかけたかな」
俺と夏生はドン引きした。便所はどうしているのだろうと気になっていたけど、これじゃあ野良猫と同じだ。俺たちの視線が居心地悪いのか、鉄平は声を荒げた。
「なんだよ。おまえもケモノ臭いくせに」
鉄平は夏生にデコピンをした。すると夏生は、即座に鉄平の脛を蹴飛ばし返した。
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