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南大東島は、火山島の上に珊瑚礁が盛り上がって生まれた、石灰岩の島だ。円形の島は、ちょうどドーナツのように、周辺が高く、中央がへこんでいる。海岸線に添って高くなった部分は幕。凹んだ部分は幕下と呼ばれているんだ。
海岸線は切り立った岩礁ばかりで、砂浜一つない。だから海岸には、岩盤を刳りぬいた人工のプールが、島の東と西に作られている。
鉄平を水浴びに連れて行こうとしているのは、島の西側の、塩谷プール。
防風林を抜けると、急に堰を切ったように海風が強くなり、潮の香があふれた。広大な海原が現れる。体の真ん中をズンと突いてくるような、混じりけのない青。
「わーあ」
海を見ると、いつだって叫び出したくなるのは、なぜなんだろう?
俺と夏生は坂を駆け降りる。海岸沿いに、塩屋プールの水面が輝いている。学校のプールの半分くらいの大きさで、まだ、誰もいない。
潮が満ちれば海水が流れ込み、引くと流れ出してゆく。今は干潮だ。時々、荒い波が岸壁で飛沫を上げて、プールに降り注いだ。
勢いよく投げられたボールのように、俺と夏生はプールに飛び込んだ。
深さはせいぜい胸が浸かるほどだ。奥に行くほど傾斜して、深くなる。水底には、小石が回転して削り取ったポットホールが点在し、天然の礁池のようだ。なまこやウニだっている。
鉄平は下着一枚になると、頭や体を潮水で洗った。それから断崖に座り込んだ。
俺は傍に泳ぎよった。そっと顔を覗き込むと、思いがけず柔らかな表情をしていた。俺と目が合っても、邪険にせず、穏やかに話し始めた。
「蒼とは、よく釣りに行ったんだ。磯子や、浮島、大井埠頭……。俺は釣り糸を結ぶのが苦手で、あいつによく教えてもらっていた。
南大東でも、釣りをする約束だった」
鉄平は三角座りをした膝で頬杖をついて、物思いに沈んでいる。波がかかっても瞬き一つしない。こちらから話しかけるのが、何だかためらわれた。
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