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第一章「百舌の恩返し」
彼が死んでからというもの、私の目に映るものは何もかもが灰色で、だからその赤が目に留まったのは、それ自体がある種の奇跡だったのかもしれない。
いや、恐らく実際のところは奇跡でもなんでもなく、赤黒い血の色が、彼が死んだ時の様子を思い起こさせたが故に、目を引いたというだけなのだろう。その証拠に、それを見た瞬間、私の脳裏では、彼が車にはねられ、そして地面に落ちるまでの様子がスローモーションで再生された。
あの日以来、何度も夢で見た光景だ。もう一ヶ月も前の出来事だというのに、あたかも実際に今もう一度目の前で彼がはねられたかのような生々しさだった。
しかしもちろん、そんなわけはなく、目の前の地面に倒れているのは、人間ではなく一羽の小鳥だった。頭や横腹がオレンジのような赤茶色のような色で、翼が灰色の鳥だ。顔には黒い線が入っている。大きさはスズメより少し大きいくらいだろうか。
猫に襲われたのか、それとも飛んでいて車にでもぶつかったのか。まだ息はあるようだったけれど、このまま放置すればまず助かりそうにはなかった。
本来なら、野生動物の生き死にに人間が手出すをするべきではないのかもしれない。しかし弱ったその姿が彼と被って見えた私は、小鳥を放っておくことができず、連れ帰って手当てすることにした。
それから一月後。
問題無く飛べるまでに回復した小鳥は、特に名残を惜しむ様子も見せず、私のもとから飛び去っていった。あまりにもあっけない別れで、あんなに献身的に世話をしたのに、と少し不満に思わないでもなかったけれど、野生動物というのはそういうものなんだろう。
そして私は気づいた。救われていたのはむしろ、あの小鳥の世話をすることで気を紛らわすことができていた私の方だったのだ、と。
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