第二章「百鬼夜行」

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 私は、驚きに目を見開く。  それは、死んでしまったはずの彼だった。百鬼夜行に混ざって、こちらへと向かって来る。  何故、彼が。  脳内で困惑が渦を巻く。  死んだ後、成仏できずに魔物となってしまったのだろうか。  彼は私の方を見もせずに、通り過ぎていこうとする。  駄目だ、このままでは彼が行ってしまう。  待って。置いていかないで。  鳥居の陰から飛び出し、彼の腕を掴もうとしたその寸前、夢の中でモズに言われた言葉が脳裏をよぎった。 『もし本当に死者を生き返らせたいのであれば、百匹目以外にはけっして手を出してはいけませんよ』  伸ばした手がぎりぎりのところで止まったその一瞬、彼の姿が陽炎のように揺らめき、醜悪な魔物の姿が重なって見えた。  私が慌てて後ろへ下がると、彼の姿をしたものは、チッと舌打ちをして、歩き去っていった。その顔に浮かんだ表情は、本物の彼であればけっして浮かべないような種類のものだった。  私は悟る。  あれが、人を惑わすものだ。  危ないところだった。あのまま、あの腕を掴んでいたらどうなっていたことか。  それからは気を抜かないよう注意していたこともあり、百鬼夜行は何事も無く進んでいった。  やがて、最後尾が見えてきた。最後の一匹は、黒板に手足が生えたものだった。サイズも学校の教室にあるような黒板そのままなので、かなり大きい。黒板消しとチョークもセットでついているのが、どこか滑稽だった。  私は唾をごくりと飲み込んだ。  あれが、彼を生き返らせてくれるのだ。なんらかの対価と引き換えに。  私は鳥居の陰から飛び出すと、黒板から生えた腕を掴んだ。  黒板の魔物が、こちらを見る。 「お願いです! 二ヶ月前に死んでしまった、私の大切な人を生き返らせてください」  私は、その魔物に懇願した。 「良いだろう、その人間を生き返らせようではないか。その代わり――」  そして魔物は、私が支払うべき対価を告げた。
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