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私は、驚きに目を見開く。
それは、死んでしまったはずの彼だった。百鬼夜行に混ざって、こちらへと向かって来る。
何故、彼が。
脳内で困惑が渦を巻く。
死んだ後、成仏できずに魔物となってしまったのだろうか。
彼は私の方を見もせずに、通り過ぎていこうとする。
駄目だ、このままでは彼が行ってしまう。
待って。置いていかないで。
鳥居の陰から飛び出し、彼の腕を掴もうとしたその寸前、夢の中でモズに言われた言葉が脳裏をよぎった。
『もし本当に死者を生き返らせたいのであれば、百匹目以外にはけっして手を出してはいけませんよ』
伸ばした手がぎりぎりのところで止まったその一瞬、彼の姿が陽炎のように揺らめき、醜悪な魔物の姿が重なって見えた。
私が慌てて後ろへ下がると、彼の姿をしたものは、チッと舌打ちをして、歩き去っていった。その顔に浮かんだ表情は、本物の彼であればけっして浮かべないような種類のものだった。
私は悟る。
あれが、人を惑わすものだ。
危ないところだった。あのまま、あの腕を掴んでいたらどうなっていたことか。
それからは気を抜かないよう注意していたこともあり、百鬼夜行は何事も無く進んでいった。
やがて、最後尾が見えてきた。最後の一匹は、黒板に手足が生えたものだった。サイズも学校の教室にあるような黒板そのままなので、かなり大きい。黒板消しとチョークもセットでついているのが、どこか滑稽だった。
私は唾をごくりと飲み込んだ。
あれが、彼を生き返らせてくれるのだ。なんらかの対価と引き換えに。
私は鳥居の陰から飛び出すと、黒板から生えた腕を掴んだ。
黒板の魔物が、こちらを見る。
「お願いです! 二ヶ月前に死んでしまった、私の大切な人を生き返らせてください」
私は、その魔物に懇願した。
「良いだろう、その人間を生き返らせようではないか。その代わり――」
そして魔物は、私が支払うべき対価を告げた。
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