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「あの鳥・・・」
上から光の鳥が降りてくる。弧を描きながら羽の先から溢れる光の帯で、闇を塗りつぶしていく。
周囲を輝きで満たした鳥はヨルダンの手元に戻り、仕事の終わりを告げるように高らかにひと声鳴いた。
3人を包む光の輪がほどけて消え、清涼な空気が流れ込む。
神殿へと戻ると光の鳥は手紙に姿を変えてヨルダンの手に収まった。
「それでは儀式場へ行きましょう。アンシェル、この手紙はまだ使いどころがありそうですから肌身離さず持っていなさい」
アンシェルは受け取った手紙を懐に入れる。
そして、ヨルダンを先頭に少し駆け足で神殿を出た。
儀式場は王国の裏手にある丘の先端にあり、到達するためには王宮を経由しなくてはならない。
しかも国王と管理権限を持っている大神官の許可も必要で、城についても入場するまでに時間がかなりかかってしまう。
「ヨルダン大神官、どちらへ?」
「近道をします。遺跡の中に秘密の通路があるんです」
そう言って朽ちかけた洞穴のような神殿の階段を降りていく。
「秘密の通路ってこんなところに・・・?」
暗闇の中を進みながらアンシェルが不安そうに聞く。
(こんな街中にあったら儀式場に侵入されそうだな)
階段を降り切って神殿の中を歩いていくが取り分け複雑な構造になっているわけでもなさそうだ。
「こんな場所では誰でも通れてしまうと思ってるでしょう、アンシェル?ちゃんと対策はしてあるんですよ」
ヨルダンが穏やかに言いながら空中に魔術文字を書きだす。それらは空中で留まり光を発した。
「・・・これは特定条件で空間が切り替わる魔法ですね」
「そうです。この暗号(キーワード)と特定動作を行うことで儀式場まで転移します」
「ここも私たちが通った後に通路は”遮断”されるから問題ないよ」
つまり、一本道に見えるこの遺跡には実は見えない鍵がついており、それをいちいち開けなければ儀式場へ行けず、しかも使用した通路は空間遮断をするため他者が『秘密の通路』として使うことはできなくなるということだ。
「通路は毎回変えますし、魔法の発動手順と通路の場所を知っているのは王族と王家に仕える一部の人間だけです」
ヨルダンの手が止まる。暗闇の奥に階段が見えた。
細い石造りの階段だ。幅は一人通れるくらいしかなくヨルダンを先頭に上がっていく。
出口までは見かけより早く着いた。彼の背中に続いて漏れる光の中を進む。
一瞬、白む視界に目を細めながら出口を抜けるとそこは暗い路地だった。
「えっ?」
オーダ達の姿もない。自分だけ何者かの魔法によって儀式場とは違う場所に飛ばされたようだ。
アンシェルはその場に留まり、辺りの様子を伺った。
「君がヘズの愛弟子か」
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