祈りの聖典

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祈りの聖典

「へー、なるほどね。つまり、ラクスにはあくまで聖典を見に来ただけですぐに出てっちゃうんだ。アンシェル君」 「ええ、この街の聖典はかなり有名ですから、見ておきたくて寄りました。今年は献花の儀という数年に一度”花の都”でしか行わない式典もあるそうですね」 「そうそう、そうなの!私も楽しみなんだ、神に「祈りの花」を捧げる”献花の儀”!ラクスの「祈りの花」はシルキストーネって名前で『天使を歌う真っ白い羊』って意味で炎の如き心、勇猛なる愛という花言葉があってね、白い花弁には淡い水色が空みたいに広がってて雄蕊が黄色くてふわふわなんだ。儀式の丘いっぱいに咲き乱れてて蜂蜜みたいな匂いがするの」 「へぇ。それはいいですね」  楽しい会話に二人の食事も進む。ここはエル・ラ・ラクスの食堂だ。賑わう大衆食堂でテーブルいっぱいの食事を二人で食べながら、アンシェル・セシアスとオーダ・ジェラルミンは談笑していた。  エル・ラ・ラクスは丘の中腹に建つ王国だ。城壁の中は中央の王宮を中心に四つの区画に区切られた街は花と緑で満ちており、その景観の良さは有名である。  人口も多く、世界の大都市の中でも指折りの豊かな国であり、世界に12か国しかない”花の都”の一つでもあった。  ”花の都”は”神都”とも呼ばれ、『神にささげる花』を保有している。花は12の国でそれぞれ違う意味と形をもち、数年に一度それを神に”献花”することで世界の均衡を保つ神聖な役割を担っている。
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