祈りの聖典

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「ラクスの献花の儀は他の”花の都”と比べて地味だけど、それでも花を市民広場の池に放つのを見たくて外からも観光客が毎年大勢来るんだ」 「この国の”献花”は市民はやらないのですか?」 「やるよ。抽選で選ばれた人が儀式場で神官と王様とお妃さま、それと神官様達と”献花”をした後、花畑の花を一輪だけ広場に持ち帰るの。池に捧げられた花は次の儀式の前年まで枯れることなく咲き続けてね、それがまた綺麗なんだよ」  声を弾ませながらお肉をワインで流し込む。  オーダはかなりの大食らいなようで下品にならない程度の量をかなりの速さで食べ進め、みるみるうちにテーブルいっぱいの料理が空になっていく。  アンシェルも彼女に負けないぐらい食べてはいるが、それでも彼女の様にはなかなか関心してしまう。彼女の話より食事風景のほうが楽しくなってきたころ、彼女が話題を変えた。 「そういえば、”献花の儀”まで見るならアンシェルは夜までラクスにいるよね?宿とか観光ルートとか決めている?」 「決めてません。綺麗な街だと聞いていたので街を適当にブラブラして儀式の時間まで時間をつぶす気でいたんです。どうせ、夜の間にこの街からは発ちますし」  オーダの食事の手が止まる。信じられないと言った表情でアンシェルを見た。 「えっ、夜に出ていくの!?ちょっと待って。ここら辺は獰猛な野生動物も出るし危ないよ?一晩待った方がいいよ!なんなら宿も紹介するから、子どもが一人でふらついたらダメ!」 「そうなのですか?でもなるべく早く次の都市に移動したいのです」 「ああ、行くとこあるって言ってたね。そんなに急ぐの?差支えなければ訳を聞いていい?」 「その訳を知る為にこの街へ来ました」  オーダの頭に「はてな」のマークが浮かぶ。アンシェルは懐から手紙を取り出して彼女に渡す。  金の封蝋で閉じられたそれをオーダは注意深く開封する。 「この手紙はヘズ、私の父親代わりのような人から預かったものです」  中に入っていた一枚の手紙に目を通した彼女が怪訝な表情をした。
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