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『そちらはもう太陽花の咲き出した頃だろう。
君の一番好きな季節だったねアンシェル。
セイニ、ヘイワズ、ユリニウス、クロウ、ジシー、みんなそれぞれ時季花の香り立つ頃にその家を去った。
ついに君の旅立ちの時だ。
アンシェル、エル・ラ・ラクスへ向かいなさい。
山の向こうにある丘のそびえる大国だ。
その国のフェジへム大聖堂に行き、ヨルダン大神官にこの手紙を渡しなさい。
君の行くべき道を彼が示してくれるだろう。
私の愛しいアンシェル コスモシアへ、私の元へ来なさい。
世界が滅ぶその前に』
「なんだか穏やかじゃないね、これは」
手紙を受け取りながらアンシェルは困った声できり返した。
「でしょう。大体、コスモシアへ来いと書いているのになぜ神官に行先を聞けなどというのでしょう?」
「そりゃ、滅びてるからでしょう」
「えっ?」
「もう300年も前にね。元々、神々の住まう伝説の土地って言われていて普通に行ける場所じゃないんだけど、逆にどう行くの、コスモシアって?」
「・・・わかりません。コスモシアが滅びたなんて・・・。それに滅びた国になぜ彼が・・・?」
アンシェルの顔色が明らかに変わった。オーダが子供のころによく聞かされた伝説のはずだが妙に動揺している。オーダはポンと手を叩いて話を促す。
「ふーむ、謎が多いよね。滅びた国に行ってどうするって話だし、世界が滅びる前にっていうのもすごく気になるね、よし!」
手元のジュースを飲み干したオーダはアンシェルをまっすぐに見つめる。
「食事が済んだら一緒に神殿に行こう。私も顔を出そうと思っていたし案内させて」
「有難う御座います。お願いします」
そうして2人で残りの食事を速やかに食べ尽くし、店を出た。
賑やかな人混みを神殿へ向けて歩いていく。商店街の集まった中心街エリアから西南方向にある古都エリアに入る。古い建造物や遺跡が多く、住んでいる人間のほとんどは管理人か研究者である変わった地区だ。
「えっ、アンシェルはコスモシアの出身なの!?」
「ええ、7歳の時にヘズに連れられて山の間にある家に住んでました」
走りながら彼が先ほど動揺していた理由を知った。11年前まで住んでいた故郷が自分が生まれる遥か前に滅んでいたなんて聞かされれば気が落ち着かなくなるのも当然だ。
背中で彼の焦りを感じつつオーダは話を続ける。
「手紙の5人と一緒に?」
「いいえ、6人です。後もうひとりシンシアと言う女性が女性がいて、彼女は家に残っているはずです。しばらくみんなで一緒に生活していたのですが、僕が13になった年からひとりずつ家を発ちました」
「へぇ、どうして?」
「年に1度ヘズから手紙が来てみんなそれを読んですぐに家から旅立たったのです。手紙の内容は解かりませんが、おそらく私と一緒で外界に旅立てとかそういう内容でしょう」
「なんだか、ますます謎だね。わざわざ故郷から連れ出たのにまた戻れって」
「まあ、それもヨルダン大神官の神託を聞けば理解できるでしょう」
「そうだね、おっ着いた」
アンシェルが前を見ると小さ目な古い石造りの神殿があった。
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