祈りの聖典

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 城門のようにそびえる円柱の間を抜けて、神殿の中に入る。  中はとてもシンプルだ。神殿の最奥に祭壇があり、中央には砂時計の形をした柱が、6角形を象る様に置かれていて、吹き抜けの天井から光が注いでいた。 「おや、オーダ久しぶりだね。今日はお客さんも一緒かな」  祭壇の先の暗がりから老人が顔を出した。白を基調とした祭服に黄色と青の装飾が控えめに施されている。 「ご無沙汰しております、ヨルダン大神官。彼はアンシェルです。山の向こうからわざわざラクスにきてくれたんですよ。それで、今日はお願いしたいことがあって・・・」 「ヘズの手紙でしょう?見せてみなさい」  2人は顔を見合わせた。自分たちが来ることを予見していたのだろうが、その口ぶりからするとヘズとも知り合いのように聞こえる。  アンシェルは穏やかな表情の老神官に手紙を渡した。 「ヘズのことをご存じなのですか?」 「ええ、彼にはよくお世話になりましたから。ヘズ・テアと言う名前を言えばどんな国でも昔話に出てくるような逸話や偉業が聞けるでしょう。まさに賢者の呼び名がふさわしい人ですよ、彼は」  手紙に目を通しながらどこか懐かし響きのある親しげな声でヨルダンは話す。 「ヘズ・テアですか。ひょっとしてヘズ様はウルハ・テアのご親族なのですか?」 「その話は『彼女』の方が詳しいだろうから後で聞くと良いでしょう、まずはこの手紙の事が先です、もう少し借りてもいいかな、アンシェル?」  疑問顔のオーダの横でアンシェルが首肯する。自分が知らないヘズの話も聞いてみたかったが、『彼女』に聞けるようなので後回しにすることにした。 「ヘズは私には『行くべき場所」があるような事を書いていました。そして、その場所はヨルダン大神官が示してくれると」 「・・・私はあくまで示すだけですがね、まあ、やれるとこまでやってみましょう」  ヨルダンは手紙を封筒にしまい、その上に呪文を指で書く。 「『神の意思のままに』」  唱えた彼の手元が光を放つ。白い輝きを指で掬って糸を引くそれで空に円を描く。 「『光よ、ここに』」  優しい光は3人を囲む円柱まで広がり、柱を囲むように光が留まる。ヨルダンは円を作っては投げ、7つ目を描いたところで手が止まった。  そして今度は手で光を包み込み、創り上げた白い球を真上に投げる。  殻が弾けるように光の帯をまき散らしながら、それは尾の長い光の鳥に姿を変えた。 「ヨルダン大神官、あれは」 「あの手紙に封じ込められてた魔力を解き放ったのです。彼はこういう仕掛けが好きでね、あの鳥が我々を導いてくれます」  翼を広げた鳥がひと声鳴く。何重にもなった光の輪がどんどん伸びていき、壁になる。  役目を終えたと言わんばかりに鳥がまた甲高い鳴き声をあげ、天上の青空へ飛んでいく。  その姿が空に消えたと同時に壁が大きな音を立てて壊れる。 「・・・これは!」  驚くアンシェルとオーダの頬を暖かい風が撫でた。  
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