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正直このような謎解きを仕掛けられること自体はさほど珍しくはないのだが、今回の問題はいつもより明らかに規模が違う。
しかも事前情報があまりにも少ない。謎解きゲームをするときは予めヒントを用意してくれていたがそれもない。
(彼女たちに任せるしかないか)
シンシアと談笑する2人を見ながら思う。2人も彼の事を知っているようだしこのつながりも考えようによってはヘズの与えてくれたヒントだ。
(焦ってもなるようにしかならないもんな)
穏やかな彼の横顔を思い出すと不思議と冷静さが戻ってくる。
思えば、彼の問うてくる謎は難題ばかりだったがきちんと取り組めば必ず解けるものばかりだった。
『意味と言うものはね必ずその姿に映るものだよ。よく見なさい、かわいいアンシェル。お前ならどんな問題の意味でも解けるはずだ』
幼いアンシェルにヘズはよくそんなことをとても楽しそうに言って聞かせた。慈愛に満ちた水色の瞳に見つめられながら、課題をこなすのは本当に冒険のようでわくわくしたことをよく覚えている。
(ヘズにとっては今回の事もいつもの遊びと同じなんだろうな)
思えば、父親のように優しい人ではあったが、その優しさと同じくらい底意地の悪く、また普通とはだいぶズレているところがあった。
オーダ達と出会ってから断片的に外での彼の話も聞いて、自分のイメージと実際の彼はだいぶ違うのだろうとなんとなく確信した。
(ヘズは今、どこで何をしているんだろう?)
ふと思いつく。よく考えたらあの手紙に彼がコスモシアにいるとは書いてはいなかった。あくまで自分の元へ来い、だ。
きっと彼もこの世界のどこかで自分の務めを果たしているはずだ。自分がこれからすることが、彼の目的に何かしらの形で関わることにはなるのはなんとなく解かる。
世界の均衡を保つ秩序を聖剣によって創る、それによってどんな目的がなされるのかアンシェルには見当がつかなかった。
「あら、アンシェル難しい顔して。ごめんなさい、あんまり話し込んでる場合じゃなかったわね。余ったケーキは包むから持っていきなさい。彼女も食べるでしょう?」
「ええ、ありがとうシンシア」
お礼を言って3人は立ち上がる。不思議そうな顔をしたオーダを連れヨルダンが玄関に向かう。
少し遅れてケーキ入りの箱が入った袋を持ったアンシェルが家の外に出た。
「最後にね、アンシェル。あなたが行ったらこの家は壊すわ。思い出がいっぱ
いあってとても残念だけど、私の役目のひとつなの」
「・・・そうですか。寂しいですね」
「ええ、とても。・・・それじゃアンシェル。健闘を祈るわ、また一緒にお茶をしましょう」
「当然です、今度はみんなで一緒に旅の話でもしながらのんびりと。シンシアもどうか無事で」
シンシアは微笑みながら戸を閉じると、辺りの情景が一切消えた。
完全な暗闇に一行は取り残される。しばらく立ち尽くしているとやがて小さな羽音が聞こえた。
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