嵐野 英斗(あらしの えいと)ルート①

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嵐野 英斗(あらしの えいと)ルート①

 横山が黒板に丸めた模造紙をくるくると広げながら貼っていく。わかりやすく綺麗な文字が並べられていた。 「これわざわざ作ってきてくれたのか?」 「こうして書き出したた方が皆さんにわかりやすいかと思って。あらすじ案は3つです」 「①燦燦高校の番長、嵐野は怒涛高校の番長、並河とかねてから敵対関係にあった。両校の間では争いが絶えず 、一触即発の日々だった。この状況に心を痛めた燦燦高校レディース番長の丹沢は並河に決闘を申し込み、決闘の結果丹沢が勝てば 争いを止めるという条件をつけさせようとするが、並河は取り合わず、丹沢を陥れて人質とし、嵐野をおびき寄せる。遂に嵐野と並河の 血みどろの決戦が開始される……!」 「丹沢さんそんなキャラなの?」 「ヒロインはレディース番長だったのか……」 「②嵐野は番長と呼ばれる特殊能力を持っている」 「番長って特殊能力なのか!?」 「隣の高校の並河も番長の能力者である。各高校の番長はバンチョーロワイヤルに参加する」 「バンチョーロワイヤル!?」 「バンチョーロワイヤルにより、勝ち残ったただ1人がゴクジョーバンチョーの栄誉を勝ち取るのだ!血で血を洗う無情な戦いが今、 幕を開ける……!」 「全く話が見えないけど、かえって気になるね……」 「ヒロインどっか行ったしな。異能バトルに書き換わってるし……」 「③嵐野は平凡な中学生。受験に失敗したためヤンキーの多い燦燦高校に通うことことになった。入学早々、クラス1のヤンキー、 清水にちょっとしたきっかけから喧嘩をふっかけられる。初めは防戦一方の嵐野だが、まぐれで繰り出したひと蹴りから才能が開花し 清水を打ち負かす。倒れた清水は感動し、嵐野を新世代の番長としてスカウトする。こうして嵐野は高校入学と同時に番長としての スタートを切るのだった……!」 「今度は清水が出番多い!」 「少年マンガにありがちなストーリーだな……王道っちゃ王道……この続きで、並河との抗争もやるのか?」 「もちろんです。さあ、どれがいいですか?」 「僕は②が見てみたいな。わけがわからなくて面白そう」 出口がのんびりとした口調で言う。 「③は嵐野くんの成長物語で熱い展開になりそうな感じがするね」 来無は③を推す。 「俺の言ったあらすじがかろうじて原型をとどめてるのは①だな」 並河が言う。 「嵐野くんはどう思う?」 「俺はどれでもいいや。むしろ俺を主人公から外してくれねーか?」 「それは却下」 一同口を揃える。 「だめかぁ……」 「クラス中が期待してるんだ、嵐野に。俺を差し置いて」 「じゃあ並河が主人公でいいじゃねーか!」 「俺はヒールのほうが似合うんだよ」 「俺だって似合うかもしんねーだろ」 「お前はちっさいから無理。ちっさいやつが頑張ってるほうがみんな応援したくなるんだよ」 「さりげなく馬鹿にすんな!」 「結局どうするんですかぁー! 今日決めないと書き始められませんよ!」 横山が必死に並河と嵐野に割り込む。 「多数決でいいんじゃないの? もっと他の意見ある?」 清水がまとめはじめる。 「それぞれのお話のいいところ、欠点を考えてみたらどうかな?」 「丹沢さん、それいいかもね」 「一理あるな……舞台にするのが難しい部分も見えてくるかもしれない」 並河は模造紙を黒板の端へずらし、黒板の空いたスペースを縦に二分割する線を引く。 「①のいい点は俺のあらすじが生かされているところ、欠点は丹沢のレディース衣装を用意するのが大変そうなところ ②のいい点は設定がとにかくぶっ飛んでいて話題性がありそうなところ、欠点はバトルロワイヤルをするなら番長役を俺と嵐野 以外にも何人か用意しないといけないところ。③のいい点はストーリーが王道少年漫画みたいでわかりやすく熱いところ、 欠点は清水と嵐野が結構本気で殺陣をやらないといけないところ……こんなもんか?」 さらさらと板書した並河に嵐野は感嘆の声を漏らす。 「お前この短時間によくそんなすらすら出てくんなー」 「伊達に帰宅部はやってない」 「どういう意味か全然わかんねーけど!」 「いろんな勧誘とか偏見の目とかを全部器用にくぐり抜けてこその帰宅部人生だからな」 「自分が器用だって言いたい? お前らもそうなのか?」 嵐野は残り四人の帰宅部を振り向く。全員が全力で首を横に振っている。 「違うって言ってるじゃねーか!」 「で、あとなんか意見ある人ー?」 「①と③をつなげたらどうかな?」 「どうやって?」 「順番的には③から①の順で、まず嵐野くんが高校入学して私、清水を倒して番長になる、そして並河くんとの抗争を描くの」 「流れは良さそうだな」 「なら今清水が提案してくれたの①と③の折衷案と、②のドタバタ能力バトル路線でクラスの皆に投票してもらおう。 それじゃ今日は解散!みんな気をつけておうちに帰れよ。帰宅部だから家に帰る技術はプロ級だと思うけど」 「並河、帰宅部に妙なキャラ設定つけるのやめろ……」    「今日のクラス投票の結果、①と③の折衷案の方に決まったわけですけど、これで書き進めていいですか?」 「いいよ。横山の書きたいように書けよ。オレらはそれに沿って練習するだけだ、な、丹沢?」 「そうだね。横山さんの脚本楽しみにしてる」 「あとは殺陣の稽古だな。とりあえず番長の俺と嵐野と、参謀の清水と、レディース番長の丹沢には殺陣のシーンがあるだろう。 今日から始めるか?」 「ちょっと待って、嵐野くんも清水さんも並河くんも人より運動できるからいいけど、私は人並み以下なんですけど……」 「オレが型を決めてやるから覚えれば大丈夫だよ。心配すんなって!」 「嵐野、頼んだ!でもお前が型付けたらお前にしかできない異次元の動きになりそうだな」 「嵐野くんが考えたら見せて。私と並河くんで常人レベルに直してあげるよ」 「よろしく頼むぜ!清水、並河!」    試行錯誤の末につけてもらった型を来無は寮の部屋でノートを見ながら一生懸命再現しようとしたが、思ったようにできない。 「やっぱり1人だと無理だー……覚え切れてない……」 嵐野にメールすると、いま剪定中だけど来てくれたら教えるぜ!と返事があった。 「仕方ない、行くか……」
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