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雛は渾身の力を使って男から逃れようと暴れた。朦朧としていた意識が冷水を浴びたかのように目覚めて、腹の底から声をあげた。
「嫌…っ…!!」
だが少女の力など男には何の意味もない。掴まれていた手首をひねりあげられ、すぐに組み敷かれてしまう。
男が笑いながら言ってくる。
「一方向ーつまり特定の人間だけに幸運をもたらす儀式だ。その暴れようじゃ、方法は嬢ちゃんも知ってるみてェだな?」
「嫌……嫌だ!離して!」
暴れる雛の顔を男は煩わしげに鷲掴みにした。片手は雛の手を掴んだままだ。
「泣き顔はいーが、五月蝿く喚くなよ」
涙が溢れる。口を閉ざされ、雛は男が自分の手をー否、人差し指を口に近づけるのを見ることしか出来ない。
獲物をなぶる目で、男が呟いた。
「儀式の方法は、妖の肉体の一部を血肉とすること………いただくぜ、嬢ちゃん」
男の歯が雛の指先の爪に噛みつき、肉とともにむしる。ばきん、と噛み砕かれる爪と、あふれ出た血を男は舐めとる。
雛は泣きながら悲鳴をあげた。
ざあぁぁぁぁ………
いつの間にか降りだしていた雷雨が、その悲鳴をかき消す。
そのおかげで、"幸運"にも、男の所業が誰かに気づかれることはなかった。
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