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ひとつ、ふーたつ、みぃっーつ………。
鼻歌でも口ずさむようにその男は口の中で数を数えた。
数えていたのは足下にある死体だ。
親子であったのであろう。小さな子を守るように折り重なった両親。そのどれも腹や喉を斬り裂かれ、おびただしい血が流れー降りしきる雨に混じり、その男の草履も濡らす。
たった今親子の命脈を奪った刀を男は肩にかつぎ、雨に濡れる髪を無造作にかきあげた。唇が歪み、残忍な笑みを形づくる。
「あーあ。また斬っちまったなぁ。"子供"だけは殺さないようにって思ったんだがぁ………」
"練習"は上手くいかなかったようだ、と軽く呟く。
「んんー。まあ、いっか」
何度か繰り返せば我慢できるようになるだろうと楽観的に考え、男は死体またぎ、ゆっくりと歩き出した。
歩きながら、"本番"は何時だったかと考えて、あぁそうだと嗤う。
「今日じゃねぇか。練習に夢中で、忘れちまうとこだったぜ」
刀を鞘にしまい、手を打ち鳴らす。ご機嫌で男は声をあげた。
「なんだ、もうツイてきてるじゃねぇか。忘れずに思い出せるなんざぁ久々だ。あっははは。こりゃホンモノだねぇ。妖の力ってのも」
男はひとしきり笑ってから、また口ずさみだした。
ひとぉつ、ふーたつ、みぃっーつ……
歌うそばから、かつてその手で斬り殺してきた死体が足下に列を成していくのが男だけには見えていたが、雨か、血か。それすらもわからぬ、ぬかるんだ地面を男は笑みを浮かべたまま歩いていった。
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