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そんなことを願っても、意味はない。
雛と浅黄は間もなくある屋敷へとたどり着いた。
屋敷にある客間ではなく、離れに通されてその時を待つ。
暫くすると障子に影がさした。それを見たふたりは同時に畳に手をつき平伏す。
音もなくすっと障子が開き、男が二人の目の前に置かれた座布団へと腰を下ろした。
パチン、と男が手にした扇子をならす。
「顔をあげなさい」
「はい」
雛と浅黄は畳に手をついたまま顔をあげた。目の前に座るのは、立派な刺繍を施された着物を着た30手前くらいの男だった。恰幅は良く、自信に満ちたその表情から雛を見る視線は、当たり前だが、人間ではなく、物を見るソレだった。
男は雛と目が合うと扇子を広げ、口元を隠した。
「なんとまぁ……人間離れした容姿よ」
銀の髪、紫の瞳。街に出るときは薄布を纏い隠しているが、今はそれはない。男の態度は概ね、予想していた通りだった。
「平野様。お言葉ですが"これ"は証でもあります。人間離れした容姿は、この一族のー特にこの者のように強い力を持つ存在にはままあることでして」
浅黄の言葉に平野と呼ばれた男が扇子を扇いで目をすがめる。
「さて。私には判別がつかぬがな。そちらの一族の話は聞いておるが……偽物を掴まされても私にはわからぬ。なんとも霧を掴むような話ではないか。"幸運をもたらす存在"などという話はー」
パチン、と扇子を鳴らす。平野は一言も発さないままの雛にそれを向けて、スッと顎を上げさせる。上向いた雛を可笑しげに見やり、さらりと告げた。
「何でも、そなたには姿がもうひとつあるとか?その姿を見せてみよ」
「平野様、それはー」
浅黄が立ち上がりかける。が、それを眼差しと扇子で制し、平野は声をあげた。
「貴様には話しておらん。黙れ」
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