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雛は頭をもう一度下げて、口を開く。
「将来の旦那様に請われては拒む理由もありません」
「聞き分けが良い。早う見せてみよ」
愉快そうに言う平野とは違い、浅黄の表情は硬い。心なしか青ざめといるようだ。
雛はゆっくりと目をまばたいた。
音も光など特に何もない。だが、ただ雛がまばたいた、それだけでー彼女の姿はその場から消え失せた。
「なんと…………」
かわりに、そこに、まるで鼠のような小さな毛玉が落ちている。
ぱたり、と平野の手から扇子が落ちる。
目は驚愕に見開き、唇は戦慄いていた。
「これが、私の本来の姿ー妖の姿にございます」
毛玉についた小さな目が平野に向けられ、やはり小さな口から発せられたのほそんな言葉だった。
浅黄は見たくないと言わぬばかりに目をそらし、平野は小さなソレに恐怖を感じている自分を恥じたのか、声を震わせながらも口を開いた。
「………幸運を呼ぶ妖……と、聞いたが、妖というのは本当のようだな……何とも気色の悪い……もういい。人間の姿になれ」
雛は何も言わないまま姿を人間の姿へと変える。それもやはり一瞬であった。
浅黄が恐る恐る平野へ口を開く。
「平野様………婚姻の話は」
「話に、ある一定の信頼は出来た。取り敢えず花嫁修業としてこの家に来てもらおうではないか。それで私が幸運に恵まれれば妻として迎えよう」
「必ず恵まれます。コレの力は一族の中でも一等強く、妖の姿に自在に変えられるのもそのおかげ………。ただお忘れなきよう」
浅黄が頭を下げて告げる。
「妖としての姿では力の消耗が激しい。長くコレの力の恩恵を受けたければ人間の姿をとらせるよう」
「わかったわかった。私としてもあのような姿を見るのも御免だ………とりあえず今日はさがってよい。ソレを呼ぶ日は追って報せよう」
ありがたき幸せと、浅黄と雛は頭を下げた。
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