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何が起こったのかーただ沸き上がった衝動に雛の目を塞いだ手を振り払う。
骨張った手は別に何の抵抗もせずに雛を解放した。そのせいで勢いがあまり、雛はつんのめって前へ転んだ。
「……っ」
地面についた手の前に、浅黄の足があった。が、同時に、ぼたぼたっと頭に何か液体が降ってくる。月明かりはない。その時、浅黄の手にしていた提灯が地面に落ちてきた。
蝋燭の炎が地面を照らす。頭上から降っていた液体がー血だと認識したのは、一瞬遅れてからだった。
「…………」
声も出ないまま上を見上げる。
目の前に立つ浅黄の首に、杭のように刀が刺さっているのが見えた。浅黄の体にもう力は入っていない。ただ刀に貫かれ、体はそれで立っているだけ。
そして、次の瞬間には刀が横向きに引き抜かれて、おびただしい血を吹き出しながら、浅黄の首は半分千切れて地面に沈んだ。
生暖かい血を頭からかぶりながら、雛は目を見開いたままその光景を見た。
どさり、と目の前に浅黄が横たわって、地面が血の海になっていくのを見続けた。
そんな雛の隣に、男がひょいと座って顔を覗きこんできた。
「紫の瞳に銀の髪………うん、間違ってねェな。嬢ちゃんが幸運を呼ぶ妖ってぇやつだろ?」
雛の虚ろな目から涙が溢れてしたたった。悲鳴をあげたり、泣き叫んだりすら出来ないまま、頭が混乱してどうしようもなく、ただ泣く事しか出来ない。血を浴びた顔に幾筋も流れていく涙を男は面白がるように眺めた。
「うぅん。危うく嬢ちゃんごと貫くとこだったがぁ、ちょっとずらしといて良かったなぁ。イイ泣き顔するじゃねぇか」
男が立ち上がった。同時に雛の結い上げていた髪を掴んでいる。どうやら腰を抜かしていたらしく、抗う力すらないまま持ち上げられ、痛みに雛の顔が歪んだ。 そこで漸く現実が頭に追い付いてきて、雛は浅黄に向かって手を伸ばした。
「あさ……ぎ……っ」
腰を抜かしているせいでよろよろだった。が、それでも歩こうとした雛は男に抱き止められた。
「離して!」
「あーもう暴れんじゃねぇよ」
声は軽く、だが容赦は無かった。
掴んだ髪を勢いよく引っ張り、小さな悲鳴をあげた雛のその首筋に刀をあてて、男はぎらつく目をむける。
「生きたかったら自由になることは諦めなァ、嬢ちゃん」
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