2人が本棚に入れています
本棚に追加
◆◆◆
幸運を呼ぶ妖の伝承は古くから、一部の人間のみに伝えられていた。
それは政を行う者や、富がある者にだけだ。何故かと言えば妖の一族がそれらの者に対してだけ、取引をしていたからである。
妖怪といえど寿命は人間より遥かに短く、他の力ある妖怪に狙われてしまえば身を守る術をもたない。だから、雛の一族は古くから人間社会で力を持つ人間に、自らの一族から贄を差し出し、その身を匿って貰うことによって永らえてきた。時代が移りかわり、ただ贄として鎖で繋がれるのではなく、結婚させられることも珍しくはなくなった。
人間との混血でも稀に妖としての血を色濃く受け継いだ者達が出始めたのもここ数十年ではあったが、やはり純血種には到底及ばない。
そうなると一族は純血種を囲いはじめ、実験的に混血児を作るようになった。稀ではあるが、そうして産まれた混血児が贄として人間に差し出されていた。が、最近では、幸運を呼ぶ妖は贄ではなく、一族をより繁栄させるための道具として金によって一部の人間に売り買いさせられていた。
ーだから、今回の雛の見合いもその一貫であった。今世の出自は純血ではないが、雛は何度となく妖として生まれ変わってきた元、純血種であり、その妖力は純血に負けぬ力を持っていた。
とはいえ、何度も生まれ変わりを繰り返す雛は贄として最適ではあった。どうせ短い命ーつまり短い時間、人間に"貸し出し"その寿命を全うすれば、また生まれ変わって戻ってくるのだから。
そうした一族によって、雛はもう長いこと自由を失っていた。一族の道具として、今回もまた短い間、人間に飼われるのだと思っていた。だが、それだけならまだマシであったかもしれない。
こんなーこんな地獄に、放りこまれるよりは。
最初のコメントを投稿しよう!