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ピンクで統一された随分と可愛らしい少女趣味の部屋に、似つかわしくない執事服の男と、無表情のメイドが真っ白な袋を持ってそこにいた。寝相が悪かったのかぐしゃぐしゃに丸まったシーツの上には誰もいず、布団からはすでにぬくもりが失われていて、ベッドにいた人物がここを開けてから時間が経過したことを示している。
「あーあ。俺たちが掃除している間。やってきたジジイ共は美味い飯で接待受けてんのかあ」
男はぼやきながら布団からシーツをはぎ取って、白の袋のなかに乱暴に突っ込んだ。
「口ではなく手を動かしなさい」
「はいはい」
きびきびしたメイドも言葉に返事をしながら、男はテーブルの上に置かれていたものに視線を止めた、幸福な子どもが壁の中、通称ファームから持ってきたものが綺麗に並べられている、そのひとつのお守り袋に手を伸ばし、中身を覗き込んで顔を顰めた。
「うげ。銀貨1枚くらいは入ってるかと思えば、ゴミが入ってる。きったねぇなあ」
袋の中には草臥れた四つ葉のクローバーがひとつ。見てみろよ、とメイドに摘んで見せると彼女は顔を顰めた。
「遊んでないで。さっさと掃除する」
「はいはい」
さっきと同じ声の調子で男は頷いて、丸く編まれた草臥れた草と、素人が縫った粗さの目立つ装飾もない貧乏くさい布切れと、四葉のクローバーを一緒にゴミ袋につっこんだ。
屋敷の主は来客と共にしばし談笑を楽しんでいた。
前菜はすでに平らげられていて、メインディッシュを待ち構えていた、悔しがるよりも楽しみが上回っていることに屋敷の主は驚いたが、まあ無理もないと笑う、それほどに手に入らない希少なものだ。
扉がノックされて、両脇にいたふたりのメイドが観音開きになっている扉を同時に開くと、コックコートを着た料理長がガラガラとキッチンワゴンを押しながら入ってきた、ワゴンの上にはドームカバーが被せられた銀製の皿が乗っていて、皆が目を輝かせ、生唾を飲み込んだ。
「皆様、ご堪能下さい」
屋敷の主が両手を広げると、料理長がドームカバーを開けた。ふわりと湯気とともに香ばしい香りが部屋に広がる、中にはこんがり焼けた美味しそうな肉が入っていた。
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