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メイドや執事は今日来たるお客様のためにせわしなく動いていた、一枚板の大きなテーブルに磨き上げられた銀食器、曇りひとつないワイングラスを並べて、段どりの最終仕上げを話し合っていた。
厨房でもミーティングが行われ、来賓リストと照らし合わせて彼らの苦手なものが入っていないか、アレルギーはないかなどの確認作業を行っている。
彼らが忙しいのはこの屋敷に念願の「幸福な子ども」がやってきたからだ。
屋敷の主は8年前からずっと幸福の子どもを待っていた、幸福の子どもを家に招く権利を得るために相当の努力をした。使えるコネを使い、ようやく権利を取得し、それから8年の月日を得てようやく彼女がやって来た。
小さな体に少しだけふっくらした体系、 初めて幸福の子どもを見た感想としてはどうにもピンとこなかった。正直壁の内側の子供のほうがよほどらしく見える、だが普段から良家の坊ちゃんや令嬢を見ているせいかもしれない気づく、思えばストリートにいる子供たちはもっとやせ細っていて見られたものじゃない。
皮張りのソファに座り、来賓リストに目を通す。このなかには幸福の子どもを欲しがっていたが手に入らなかったものたちが何人もいる。彼らの悔しがる顔が目に浮かぶようだとほくそ笑んだ。
扉がノックして返事を待たずに開かれる。いつものメイドがそこに立っていた。綺麗な顔に感情を乗せない、演じてみれば綺麗な微笑みを完璧に見せる彼女は多少の無礼はあるが、屋敷の主はこのメイドのことを気に入っていた。そんな彼女でなければあの仕事は収まらない。今までのメイドはどいつも使えなかった。
「間もなく準備ができます」
「様子はどうだ?」
「はい、バスタブに浸かっています」
「そうか」
屋敷の主が頷くと、扉がノックされた。返事を返すと別のメイドが入って来て一礼する。
「お客様がお目見えになり、部屋へお通ししました」
「よし、幸福の子どもを案内しろ。お披露目だ」
屋敷の主は立ち上がり、メイドふたりが礼をした。
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