豪華な食卓

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身なりを整えられたフェリチタをメイドがこっちよと呼んで歩き出す。きっと朝ごはんだ、昨日飲んだジュースはとても美味しかったから、きっと朝ごはんもおいしいに違いないとわくわくと心躍らせた。 階段を降りて行くと人の話し声が聞こえてきた、メイドとご主人様しか会わなかったからここにはふたりしかいないのかと思っていたけれど、もっとたくさんの人が居るんだと嬉しくなる。同じくらいの子はいるのかな、友達になれるかな。フェリチタは心を弾ませてメイドの後に続いて、話し声の聞こえる扉をメイドが開いた。 長いテーブルにぴかぴかに磨かれた銀食器、曇りひとつないワイングラスが置かれてメイドが壁際に何人も立って並んでいた。テーブルに座るのは、男性、女性、子供、と混ざっていた。彼らは規則正しく等間隔に椅子に座って、開いた扉へと視線を向けた、上座にはご主人様が両手をテーブルの上で組み満足気な表情でフェリチタを見る。 視線の中心にさらされたフェリチタはびっくりする、村に居た時もひとつのテーブルを囲んでみんなが座っていた。それでもそこには乱雑さと明るさとが入り混じってとても暖かい印象を与えたのに、ここはどこか冷たい。 メイドが促すのでフェリチタはその後ろを付いていく、物珍し気にじろじろと見られる。ご主人様の隣に連れてこられたフェリチタはどうすればいいのか困った様子で視線を泳がせる。 「諸君見てくれ、これが「幸福な子ども」だ」 ご主人様の声にみなが嬉しそうに手を叩いた。 「これが、あの…!」 「まさか生きている間にお目にかかれるとは思っていなかったよ」 「幸福な子どもだよ!お母さん!」 思わぬ歓迎にフェリチタの緊張もだんだんと解けてきた、きっと来たばかりのフェリチタをみんなに紹介するために連れてきたんだ。ほっと肩の力を抜いて挨拶をしようと思ったけれど、メイドがこっちよとまた歩き出しあれ?と首を傾げる。 今からみんなでごはんじゃないの?一緒に食べるじゃないの?戸惑ったけれどメイドに付いていく、テーブルのうえには料理はまだ乗っていなかった、きっとお手伝いをするんだなとフェリチタはひとり納得した。 付いて行って通された部屋は鍋やお玉が天井からたくさんぶら下がった厨房だった。やっぱりそうだと確信する。厨房はむわっとした熱気に満ちていて、フェリチタの嗅いだことのない香辛料の匂いがした、火にかけられた鍋がぶくぶくと音を立てて沸騰し、まな板に乗せられたジャガイモやニンジンなどが素早い動きで切断されていく、一様に同じ動きを繰り返す同じ真っ白な服を着た男たちの姿はどこか恐ろしくフェリチタは体を固くした。 メイドはひとりのふくよかな体系をした男に声をかけた、振り返った男にじろじろと眺められメイドの後ろに隠れた。 「料理長、後はお願いします」 メイドは自分が一歩引いてフェリチタを前に押し出し、フェリチタは不安げに見上げたが彼女はフェリチタを置いて部屋を出て行ってしまう、それを追いかけようとしたけれど、白い男の手が伸びて腕を掴まれる驚いてるフェリチタの前で扉がゆっくりと、重々しく閉められた。
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