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お腹一杯まで食べたフェリチタは芝生の上で寝転がっていた、ぽかぽか陽気がとても気持ちがいい。隣にはアンナが外のほうが気分がいいからと、ちくちくと針仕事をしていた。器用に作られていくそれに興味深くフェリチタが見る。 「アンナの手は魔法の手だね」 「普通よ、お母さんはもっと早く出来るのよ?それに比べたらまだまだよ」 楽しげに針を動かすアンナを見て、針仕事をする時にはアンナに教えてもらおうと心に決めた。 「フェリチタ!アンナ!」 ふたりを呼んだのは自転車を漕ぐ青年ファビアン。自転車は壁の外の偉い人が村人に与えたもので貰った当初はみんな物珍しさに群がったものだが、乗るのがなかなかに難しく早々に投げ出してしまった、そんななか彼はめげずに練習し乗れるようになった。 自分の足で走るよりも早いスピードで動くそれに子どもたちも大人もこぞって後ろに乗りたがった、フェリチタもそのひとりでよく乗せてもらっていたが、今はそれも落ち着きファビアンが好きで乗っている。 「壁を見に行こうと思うんだ、一緒にどうだい?」 壁の向こう側への憧れが強いファビアンはこうしてよく壁の近くまで自転車を走らせる。 「行きたいけど、それ二人乗りでしょう?」 「んーそれもそうだ。よし!ふたりで乗って、僕が押していくから」 「自転車って怖いわ」 「平気平気!ちゃんと押さえてるから」 まだ作り途中のアンナの緑の布は籠の中に入れて、ファビアンに抱きかかえられてフェリチタが前輪側、アンナは後輪側に座った。アンナの緊張が自分にも伝わってきてつい笑ってしまう。 「よし、行くぞー」 「きゃあああ」 ペダルがくるくる回る、アンナの目もくるくる回る。 空が、景色がぐんぐん後ろに流れていく。走っているスピードはファビアンの足の速度だが、彼は自転車に乗らなくても村一番足が速い。 「はあ。流石にこの距離走ると辛いな」 「もう乗りたくない」 壁まで走りきると息を切らせてアンナとファビアンが芝の上でごろりと寝転がる。近くには先程乗ってきた自転車も一緒に転がっている。 フェリチタは壁をぺたりと手のひらで触れる。ひんやりと冷たく、ざりざりとした石の感触、天まで届くのではというほど高い高い壁。 「何処かに穴があれば、向こうの世界を覗き込めるのにな」 ファビアンは体を回転させて仰向けからうつぶせの姿勢になり、壁を触っているフェリチタに視線を向けた。 「うん。でも神様がいる場所なんでしょう?そう簡単に人が覗き込めないよ」「それは分かるけど、見てみたいだろ!きっと想像もつかないような凄いものが一杯あるんだぜ!」 ファビアンは少年のように目を輝かせる。 「火で沸かさなくても温かい水が出てきたりするんだものね。きっと魔法の国よ」 アンナも夢にがちに言う、誰もが口を揃えて言う美しく素晴らしい世界、そこへ自分は行けるのだと思うと気持ちが高鳴った。 「向こうに行ったら、どんな世界だったのかみんなに知らせに帰ってくるわ」 ふわりとスカートを靡かせてふたりに振り返る、巨大な壁を背にフェリチタは笑った。
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