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外の世界
目の前に立ちはだかる巨大な壁、他の壁と少し色が異なって四角く切り取られ切れ目が入っているそれは、石の扉だったが知らない村人たちの目からはこれはただの壁で、外界とつながるとは想像したこともなかった。
車夫が手を上げると、ぎぎぎと重たい音を響かせてゆっくりと扉が開いていく、
「わ、あ」
魔法によって壁が割れたように見え、フェリチタが感嘆の声を上げる。
外の世界が目に飛び込んできて風がびゅうと吹いてフェリチタの長い髪を揺らした、立ち並ぶ大きな建築物、煙突から煙がもこもこと上がっていて、村人の人数と比べものにならないほど沢山の人が歩いている、道は石畳が敷き詰められていて芝生と土しか見たことのないフェリチタには不思議なものに見えた。
ここが神様の住んでいるところなんだ。
きょろきょろと視線を動かしていると、音を立てて後ろで扉が閉まり首を捻って後ろを向くと壁がまた出来ていて村の様子は伺えない。
人力車は道路の脇にすぐに止まり隣に乗っていた偉い人が降りた、フェリチタはそれに倣おうとしたけれど手で静止される。
「貴女はまだ乗っていて、私が同行するのはここまでだから」
到着まで一緒に居るのかと思っていたのに、なんだか拍子抜けしてしまった。
女性は車夫にお疲れ様でしたと礼をして行ってしまい、少し寂しさを感じながらもフェリチタは椅子に身を沈めた。
車夫は言葉もなく再び人力車を引きはじめた、車輪が回っていくのに土埃はもう上がらない。
女性が降りてしまい少し寂しく感じていたフェリチタも町の様子を見ているとそんな気持ちも晴れてきた。
立ち並ぶ家は珍しいものたちばかりだ。洋服をたくさん飾ってある家、パンばかりがおいてある家、野菜ばかりがおいてある家、店という概念を知らないフェリチタはどうしてあんなにもひとつのものを集めているのかしら?と興味ばかり、建物の間に細長い棒が立っているのもなんなのか分からない。それは街頭だったが村にはない。同じくらい子どもが集まってくすくす笑いながら歩いていて、仲良くなれるといいなとどきどきしながら見送った。
人力車は建物の間を走りながら、大きな屋敷の前で立ち止まった。
立派な門は黒で塗られていて、とても大きくて上まで見上げるとフェリチタの首が痛くなってまう。
「到着なの?」
人力車から手を離して肩をぐるぐると回している車夫に人力車に乗ったままフェリチタが聞く。
「ああ」
男は簡潔に答えるとフェリチタの体を持ち上げて人力車から降ろし、石畳の感覚がおかしくて靴でとんとん叩いた。固い。車夫が門へと近づいて壁に埋められたボタンを押すと屋敷中に響く大きな鐘の音が響いた。
驚いてフェリチタは体を縮こませて、何処から聞こえたのかきょろきょろと探すけれど音が鳴るようなものは見当たらない。
少しするとひとりのメイドが屋敷から出てきて、門の鍵を開け開いたメイドは無表情で何を考えているのか分からない。
フェリチタはその服が何を意味しているのか理解出来ず、ただ可愛い服だなと思っただけだった。
「ご苦労様でした。こちらが今回分の報酬になります」
メイドが男に小さな袋を渡すと、男はその場で袋を開いて手のひらに入っていたものを出す。金貨が2枚大きな手のひらに収まりフェリチタは興味深げにそれを見る。太陽に反射してきらりと光るのが綺麗だった。
「おいおい、朝から仕事をさせた割には少なく無いか?」
「妥当でしょう。嫌でしたら止めていただいて結構です、代わりはいくらでもいます」
「チッ、いいよ。分かったよ。これからもご贔屓に」
袋の中に金貨を戻して、男はフェリチタなど目もくれずに歩いて行ってしまった。
会話の内容が理解できないフェリチタはただ首を傾げて男の後ろ姿を見る。
「こっちよ、いらっしゃい」
メイドの声にフェリチタは振り返って彼女を見上げた。男に対して冷たい言葉で返していたのを見て怖い人だと感じたフェリチタは少し身を縮めてしまう。それを見たメイドは先ほどのことを思い出して苦笑した。
「ごめんなさい、怖がらせてしまったわね。大丈夫よ」
フェリチタと同じ視線まで屈んでメイドはフェリチタに微笑みかけられ、フェリチタの体がから緊張が幾分か解けた。
「長旅で疲れたでしょう?お風呂に入ってぴかぴかにしましょ」
お風呂は知っている、暖かい水が出てくる魔法の場所だ。村にはなかったが、幸福な子どものために作られた魔法の建物にはそれがあった。
幸福な子どもとその家族しか入ることを許されていない家だったから他の子どもたちと共有することは出来なかったが、フェリチタはお風呂が好きだ。
嬉しくて素直に頷くとメイドの後ろに続いた。
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