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建物の中に入っても驚きの連続だった、まず床に真っ赤のふわふわと何か柔らかいものが敷かれている。足場が安定しない感じであまり好きにはなれそうにないが雲の上を歩いている感覚というのはこういうものなのかもしれない。
吹き抜けになっている高い天井を見上げると、きらきらしたものがぶら下がっていた、ろうそくがいくつも乗っていて透明の雫型をしたものがきらきら窓から差し込む夕焼けの光に反射している。
フェリチタはシャンデリアも絨毯も知らない、すべてが魔法のもののように見えた。
メイドに付いて階段を上っていくと廊下は正面と左右のみっつに分かれていて、正面の廊下の両側には扉がいくつも付いていた。別の世界に繋がっているのかもしれない。フェリチタは全部の扉を開けたくてうずうずしたが我慢して大人しくついていく。
一番奥にまで来ると右側の扉にメイドが真鍮製の鍵を差しこんで回すのをフェリチタはそれを興味深げに見る、村には鍵なんてないそれがなんなのか分からない。
扉が開かれフェリチタは何度か分からぬ感嘆の声を上げた。
ピンク色の壁紙、はめ殺しの窓には真っ白なレースカーテンが光を浴びて光っていたし、チェストの上には陶器で出来た花が飾られていて、真っ白な天外付きベッドにはよく分からない形をしたぬいぐるみが置かれていた。まだまだフェリチタの目にはたくさんのものが映っていて、わくわくする。
メイドが荷物をテーブルの上に置いていいと言ったので、大切に抱きしめてきた贈り物を白の丸テーブルの上にそっと置いて、ワンピースは広げた。こうして見てみるとやっぱりアンナはすごいなあと関心する、道中に洋服がたくさん飾ってあった家があったからきっとその人は洋服を作る人なのだろう、その人に裁縫を教えてもらってアンナにお返しするのもいいかもしれない。
「お姉さん、あれはなに?」
フェリチタはベッドの上に置かれたふわふわのぬいぐるみを指さした。見たこともない不思議な形をしていて頭は丸く、頭上には半丸のものがふたつ、目も鼻も口もある、手も足もある。でも人間じゃないふわふわしたもの。
「クマのぬいぐるみよ」
「くまのぬいぐるみ?とてもかわいいけれど、不思議な形をしているのね」
「ふふ、言われてみればそうね。ぬいぐるみといったら、あの形のものばかりなのに、みんなクマがなんなのか知らないのよ?誰かが考えた絵本のキャラクターだと思うのだけど」
誰かが考えた空想のキャラクター、村に帰ったら教えてあげよう。フェリチタはうんうんとひとり頷く。
「お風呂場はこっちよ」
メイドの声がかかったので彼女に付いてく。部屋の外に出ていくのかと思ったのに部屋のなかにはさらに扉があって、そこを開くとお風呂場になっていた。
部屋にもうひとつの部屋があるなんてすごい、とフェリチタは脱衣所からお風呂場を見て感心した。猫足のバスタブ、お湯はすでに張られていてあたたかな湯気が充満していた。
惚けているとメイドがフェリチタの服に手をかけてきて、びっくりして振り返る。小さなころは母親に手伝ってもらっていたが今ではひとりで出来る。
「もうひとりで出来るよ」
子ども扱いされたことにちょっとむくれて、メイドの行動を制すると自分で服を脱いで、お湯に手を浸すと丁度いい温度。
バスタブに体を沈めると、たっぷり張られていたお湯はフェリチタの小さな体積でもお湯が零れた、肩までつかると気の抜けた声が出る。
お風呂はいつもおかあさんと一緒に入っている、この人も一緒に入るのかな?と彼女を見上げたらメイドの手にはスポンジがある。それだけじゃない彼女の足元には色々な種類のボディーソープ、他のスポンジが入った箱が置かれていた。
不思議に思っていると、彼女はボディソープを泡立ててフェリチタの腕を取る。
「何をするの?」
「ぴかぴかに洗うのよ」
数分後。フェリチタの体はもこもこの泡に包まれて、メイドの手によりごしごしと洗われた。それはもうごしごしと、じゃがいもを洗うみたいに、にんじんを洗うみたいに、ごぼうを洗うみたいに、何度も私は野菜じゃないのよ!と伝えたけれど、メイドはにっこりと笑って知ってるわ。と答えるばかりだった。
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