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お風呂に入って体はぽかぽかと暖かいのに、ぐったり疲れてしまうという経験をフェリチタは初めて体験した。村にいた時には好きだったのにお風呂嫌いになりそう。メイドに促されるままに脱衣所にあった椅子に座り、フェリチタの長い髪を風が出る魔法の道具で乾かされる、これはドライヤーというのよとメイドが教えてくれたけれど、見たことのないものに驚くよりも今は疲れが強くて驚いている元気もない。
せっかくなので早速アンナの作ってくれたワンピースが着たいなと、ワンピースを取に行こうとしたけれど、メイドに制される。
「今らからここのご主人様に紹介するの、だからうんと可愛い服を着ないと」
アンナの作ってくれた洋服だって十分に可愛いのに、とフェリチタは少し落ち込んだが、あまりわがままも言っていられないとメイドが用意してくれた服に袖を通すことにする。
真っ白なドレス、襟元はギャザーになっていて細かな刺繍があしらわれている、胸元には真っ赤な宝石がひとつ。ふんわりと広がるスカートはレースがいくつも折り重なっていて、なんだか動きにくい服だ。ラッパ口になっている袖も気になりパタパタ腕を動かした。
乾かされた髪も丁寧にとかされ、綺麗にひとつにまとめられて頭の高い位置で束ねられた。靴も新しいものを用意されていて、見たこともないぴかぴかの真っ赤なエナメル靴に足を通す、少し窮屈だったけれど歩けないほどではない。
メイドがフェリチタの前に来て満足そうに頷いた。
「うん、とても可愛くなったわ。いらっしゃい」
手を引かれるままに銀色の板へと近づき、疲れが一気に吹き飛んだ。
銀色の板にお姫様とメイドが映っていた。
「すごい、お姫様が映ってる!」
お母さんが絵本を見せてくれた、綺麗な服を着ているかわいい女の子、彼女はお姫様と呼ばれ、壁の外にいるのだと教えてくれた。壁の外にほんとうに居た、見つけた!まだ壁の外に来て1日も経っていないのに、みんなに話したいことがいっぱい出来てしまった。
フェリチタが動くと板の中のお姫様も同じ動きをする。不思議に思って首を傾げたり、手を上げてみたりやっぱり同じ。
「真似っこしてる」
くるくると回ってみる、同じ動きにくすくすと笑う。
「これはね、鏡っていって、あなたが映っているのよ。水溜りに姿が映るでしょう?それと同じなの」
フェリチタは目を丸くして驚く、やっぱりここは魔法の国なんだ。お風呂の入り方は好きになれないけれど、お姫様に変身できる。
「すごい、すごい!」
ぴょん ぴょんと飛び跳ねる、動きにくいけれど壁の外の洋服もかわいい。アンナにもミュゼにも他のみんなにもお土産に持って帰りたい。
「さ、ご主人様に会いに行きましょう」
「うん」
ご主人様というのはどういうものなのかフェリチタにはよく分からないけれどメイドの言葉に頷いて部屋の外に出る。
驚いた、そこは暗闇に沈んでいて、昼間から急に夜になってしまった。吹き抜けから月の明かりが差し込んでいたが光は微々たるもの、ろうそくの明かりはないのかしらと思うけれどメイドは何も持っていなかった。
かちりと音がして、手前側から奥へと向けてひとつずつオレンジ色の優しい光が灯りが灯った。フェリチタはびっくりしてオレンジの灯りを凝視したけれどさっぱり分からない。
メイドが足を進めたので、慌ててその後を追いかけた。
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