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豪華な食卓
柔らかな光を感じてフェリチタは目を覚ました。のそりと体を起こして、ぼんやりと真っ白なレースカーテンを見ると、 朝の光を柔らかく受け止めて優しい光となって部屋を照らしていた。はて、ここはどこだったかかしら、今日の当番はなんだったかしらと考えて、だんだんと思考がまとまってくる。
ここは壁の村じゃない、神様の住む世界にやってきたんだ。フェリチタはベッドから飛び起きて、今日こそは探検するんだと真っ白なスカートを揺らしてドアに駆け寄り、ドアノブに手をかけて回した、けれど途中で止まってしまった。
「あれ?」
もう一度回してみるけれど開かない、おかしい昨日はこうやって開いていたのを見たのに。ドアノブから手を離して顎に手を当てて考える。そういえば初めてこの部屋に入った時は細長いものを差し込んでいたと思い出す、あれがきっと扉を開ける魔法になっているんだ。だから自分では開けられないの?それでも外に出たいフェリチタはとんとんと叩いてみたり、もしもし、開いてくださいな。と声をかけてみるけれど、やっぱり開かない。
首を傾げて、視線を動かす。目を止めたのは羽目殺しになっている窓。近づいて外を眺めてみると、帽子を被って鞄をたすき掛けにしている同じ年ごろの男の子が新聞を持って走っていた、こっちを向いてほしくてフェリチタは窓をこんこんと叩いたけれど男の子はそのまま走って、歩いていた青年に新聞を渡してコインと交換して行ってしまった。
窓を開けようとしたけれど、押してもびくともしない。どうすればいいんだろう、ひとり考えているとこんこんとノックされて、返事を返す前に、フェリチタが色々試しても開かなかった扉があっけなく開かれた。
「どうやったの?なんで開いたの?なんで開かなかったの?」
「あなたでは開かないようになっているのよ」
入ってきたメイドに駆け寄ると、それが当然だとも言わんばかりの口調で答えられた。それじゃあお出かけしたい時にはどうすればいいんだろう。フェリチタがそう聞く前に、メイドは「お風呂にしましょう」と言ってきた。フェリチタはびっくりして見上げる。
「まだ朝よ?汗もかいてないのに?」
「そうよ」
メイドの言葉にフェリチタは渋る、ここのお風呂の入り方は好きじゃない。また野菜みたいにごしごし洗われるんだ。
「どうしても、入らなきゃダメ?」
「ええ、どうしてもよ」
フェリチタの言葉に頷く、わがままを言って困らせないようにね。おかあさんの言葉を思い出して、フェリチタは重い腰を上げた。
お風呂場は甘い匂いがした、不思議に思っているとお湯ではない別の何かが張られている。オレンジ色のなにか、手を伸ばして触ってみると冷たい。
「お姉さん、これお風呂じゃない。冷たいよ」
それにこの匂いは柑橘の匂い、村で飲んだことがあるこれはジュースだ。
「あなたは知らないでしょうけれど、こちらの世界には冷たい水のなかで浸かるという水風呂という文化があるのよ」
「でもこれってジュースだよ?」
村では蜜柑がたくさん取れた時にはジュースにしたり、保存できるようにジャムにしたりする。人間がこのなかに入るというのはなんだか奇妙だ。
「あなたは知らないでしょうけれど、こちらの世界にはあるの。お肌がすべすべになるのよ」
メイドの言葉にフェリチタはバスタブに張られているオレンジジュースを不思議そうに見る。フェリチタの体が沈むくらいに入っている、こんなにたくさんあったら村の人たちで分けって飲めるのに。もったいないな。
「さ、入って」
フェリチタはしぶしぶオレンジジュースのなかに体を沈めた。入ってみてもなんだかべたべたしている、でもとてもいい香りでおいしそうで指に付いたのを口元に持って行ったけれど、メイドに口に入れたらだめよ。と注意されてしまって大人しく腕をオレンジジュースに沈めた。
またごしごしされるのかと思っていたけれど、ゆっくり浸かってねとお風呂場から出て行った。足をばたばたさせて浸かっていたけれど時間が経てば飽きてきてしまった。
「水鉄砲!」
手で丸を作って遊んでみたけれど、一緒に遊んでくれるおかあさんもいない。出てしまおうと、バスタブから上がると丁度メイドが戻ってきて、体を丁寧に拭かれてまたお姫様の服を着せられる。
お風呂に入ったというのにオレンジジュースのせいで体がぺたぺたしている。水で洗い流したかったけれどメイドは水で流したら駄目だという、昨日と同じように髪も綺麗にセットされて、完璧なお姫様に変身。腕をすんと嗅いでみると柑橘の匂いがした。
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