プロローグ《始まりの日》

5/5
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 はぁはぁ……撒いたか。  さっきまで男の声が聞こえていたが、今は逆に静かなもので、俺の息遣いだけが森に響く。  最悪だ。人間に会うなんて。それも武装しているときた。  心臓が止まるかと思ったが、なんとか逃げ切れたのは運が良かった。次はこう上手くはいかないだろう。  ただ、生き残れた。あぁ、生き残れたんだな。  呆然と空を見上げる。  木々の縫い目から見えるのは2つの太陽。  あぁーあ……本当にここは地球じゃないんだな。  自分は化物になった。人間だった頃の暮らしなんてもう出来ないだろう。  出来るはずがない。  なんでこうなったんだろうか。  考えても意味のないことはわかっている。だが、どうしても考えてしまう。  目を瞑れば、人間だった頃の暮らしに戻っているんじゃないか、これは悪い夢で、自分はあの通り魔に殺されておらず、病院のベッドにいるんじゃないかと、そう考えてしまうんだ。  ……いや、いい加減現実を見よう。  俺はあの時死んだ。そして、どういうわけか化物に生まれ変わった。  これは覆しようもない現実だ。  それに、この世界はどうやら地球の頃よりも危険が多いようだしな。  未だ未知な部分が多いが、あの人間を見た感じ、魔物を討伐する存在のように思えた。  つまり、人間が組織立って魔物を狩っているという事が想像出来るわけだ。  ネット小説であった《冒険者》と言われた存在がこの世界では存在している確率が高い。いや、十中八九存在しているだろうな。  だとしたら人間と事を構えるのは得策じゃないな。  人間を殺すことに忌避感があるってのもあるが、何よりも、組織に目をつけられると厄介だ。  あの時逃げたのは思いの外良い選択だったのかもな。  もし交戦していたら厄介なことになっていたはずだ。  やれやれ、人間じゃないだけでこんなにもハードな人生になるなんてな。  全く、嫌になるぜ。  
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!