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――わしは、いつからこんなに元気がなくなってしまったのだろうか? あの女と一発ヤレたらどんなにいいだろう。ハックマンは夢想なかでセクシーなポーズをきめるジンジャーに想いをはせながら再度葉巻を燻らせた。かれの顔はネオンの灯りで陰影が浮かんでいた。 ――テキサス州警察ダラス署署長ジーン・ハックマン。当年59歳。還暦の一歩手まえ。かれは人生の折り返し地点をとうに過ぎ、人生のお楽しみ劇場(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)の舞台から下手に向かって退場する間際であった。かれには心残りがあった。もういちどあの生気で満ちあふれた時間を過ごしてみたいと思っていた。おもう存分たっぷりと、ねっとりと女の体を(たの)しんでみたいと思っていた。  もう随分ジンジャーをほっといている。彼女に愛想をつかされるのも時間の問題だ。どうにかしてジュニアを勃起させんと、あの女がいつほかの男に(なび)かんとも知れん。事実、署内にはジンジャーの噂話が風の便りできこえている。やれ、ジンジャーをダウンタウンのレストランで検察官の若いのといっしょにいるところを目撃しただの。テキサス州裁判所の判事の転がす趣味の悪いポルシェに同乗していただの。ロイヤル・ダッチ・シェルのジェネラル・マネージャーといっしょにジョージ・ブッシュ・エアポートでいちゃいちゃしていただの。これはゆゆしき事態だ! だが、わしのジュニアが本気(マジ)にならなきゃどうにもならん! 嗚呼(ロード)、この歳ごろになってしみじみとわかる。――若さだけはどうにもならない。嗚呼、わしが抱いた女どもよ――思い出は色あせることはない――わしはもう()たなくなってしまったよ……。 「あ、あのう……署長……お話があります」とニヤケ面がふだんは見せない真面目くさった顔で言って、ポリスカーを停めた。
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