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Ⅰ
ヘッドライトを灯した紅旗CA770が車道の脇に寄り、ネオンで派手に飾った中華門の前で停車した。運転席と助手席からダークスーツで刈り上げ頭の男がふたり、機敏な身のこなしでノース・ブロードウェイ・ストリートに降り立つ。
ひとりは車のフロントバンパーの前に立ち、耳に突っ込んであるイヤホンを指の腹で押しつけると周囲の警戒を始めた。もうひとりは紅旗CA770の後部ドアを左手でひいた。
要人の輸送を主な目的とする車の後部座席のドアが低い音を立てて開くと、車内から頭頂部が薄くなった白衣を着た猫背の中年の男と、同じく白衣を羽織った肌に張りがある小柄な若い女が降車した。
中華門のネオンがふたりを照らしつけていた。ふたりはそのピンクの光を浴びて、艶やかなような、醜悪なような顔にみえていた。
ロスアンゼルスの夜風がノース・ブロードウェイ・ストリートを駆けぬけ、中年の男の薄くなった髪を撫でていった。
中年の男のバーコード・ヘアーのバーコードが二三本、風に捲られ、額に垂れさがった。
男は慣れたように首をグルリとひとまわしすると、頭部のバーコードの配列が元のとおりに修復された。男はてのひらでバーコードを軽く押さえつけてから、ヘアーをひと撫でした。
若い女は中年の男のその奇妙なヘアーセットを気にするようすもなく、ハンカチで結わえた黒い髪のお団子・ヘアーの頭で中華門の奥を見つめ、湿った風に撫でられた頬の感触にわずかに反応しただけで、胸で抱えていたアタッシュケースを手に下げた。
ふたりは、警戒をつづける男たちを残し、ケバケバしいネオンの光であやしく輝く中華門をくぐっていった。
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