第二十一節 クリスタルマイン

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第二十一節 クリスタルマイン

 国境付近でのモンスター討伐は、隣国ヘルシャフトブルクとの共同作戦だった。  その作戦には、ヘルシャフトブルクの王子ヴァイスハイトも参加していた。  死の霧により、兵士たちは操られてしまう。  俺は魔法で霧を吹き飛ばし、死霊を操っていたと思われるローブ姿をした者に蹴りを食らわせた。  そいつは、吹っ飛んでいった。  近づいて見ると、気を失っている。  どうやら人間のようだ。  人間が死霊を操っていたのか!?  ヴァイスハイトが俺の前にやってくる。  そして、倒れているローブ姿をした男に剣を掲げる。 「待てよ!」  俺は、ヴァイスハイトに向けて言った。 「何だ?」  彼は、鋭い表情で俺に目を向ける。 「まだ息がある」 「だから始末するのだ……我々の任務は討伐」 「こいつは人間だ!」 「人間だろうとモンスターだろうと変わらない」  ヴァイスハイトは、操られていた兵士たちですら、一瞬の迷いもなく斬りつけた――。  まして、討伐対象なら尚更なのだろう。 「生かしておけば、こんなことをした理由を聞き出せるだろう?」  ヴァイスハイトは、しばらく俺を睨み付けていた。  この男と対峙していると背筋が凍る。  まるで、心の中を覗かれているような感覚だ。  カチャリ――。  ヴァイスハイトは、剣を鞘に収めた。  そして、俺に背を向けて歩き出す。 「好きにしろ」  まるで機械だな……心を持たない冷徹な機械……まさにそんな男だ。  俺は、生体魔法細胞組織活性化(アクティヴェイト)で怪我をした兵士の治療を行った。  ローブ姿をした男は、兵士に拘束された。  おそらく、城に連れ帰り尋問を行うのだろう。  俺の役目はここまでだった。  ヘルシャフトブルクの兵士たちは、自分たちの領土へと帰っていく。  俺の隣で、アヒルが去りゆく隣国の兵士を見つめている。  その表情に明るさは無かった。  俺はアヒルに問い掛けた。 「隣国と、俺たちのいるフォレスティアの関係は良いのか」  アヒルは、俺に目を向ける。 「今はね……今は……」 「気になる言い方をするな……」  まるでこれから先、争いが起きるような……そんな物言いだ。  アヒルはしばらく黙っていた。 「好戦的な国なのよ……」  ただ、それだけ言って歩き出した。      ◇ ◇ ◇   それから数日が経った――。  城の二階部分には、魔導師専用の建物がある。  中には、寮、食堂、会議室、書庫、儀式の間などがある。  毎朝会議室ですべての魔導師が集まり朝礼を行う。  俺とユリルも、いつの間にか参加することになっていた。  俺は眠い目を擦りながら最後尾に座った。  低血圧のユリルを、毎朝起こして連れてくるのも俺の役目だ……。  グー……スー……ピー――。  ユリルは、席に着くなり突っ伏している。  こいつ……寝てるな……。  リリィは魔導師のリーダーだ。黒板の前に立ちメモを読み上げる。 「昨日の国境での共同作戦はお疲れさまでした。拘束した男の身元は現在特定中とのことです」  いわゆる連絡事項が、毎朝リリィから全魔導師に伝えられる。 「東の村を襲撃していたリザードマンは、掃討作戦により撤退したと報告が入っています」  俺が国境に行っている間に、別の部隊が派遣されていたのだろう。 「また、北の鉱山クリスタルマインでは、新種のモンスターが見かけられたようです」 「はぁぁぁ……」  リリィの横で椅子に腰掛け、肘を付いていたローズが深いため息を漏らす。 「近いうちに討伐依頼、出そうね……だるーっ」 「この前はサボりやがって……次はぜってー連れて行くからな……」  俺は、周りに聞こえないように小声で喋った。 「聞こえているわよ!」  俺の頭の上でアヒルが返事をする。  朝会が終わり、寮で朝食をとっていると思わぬ客人が現れた。 「おはよう!」  手を振りながら、澄んだ声であいさつしてきたのは王女マーガレットことメグだった。 「メグーッ」  誰よりも真っ先に挨拶を返したのはアヒルだった。  メグの胸に飛び込む。  メグは驚きながらもアヒルの頭を撫でる。 「アヒルさん、おはようございます」 「んんー……敬語なんて使わないでー」  アヒルは、メグに頬ずりする。  メグが困った顔を浮かべていたので、俺はアヒルを引っぺがした。 「なにするのよー!」  メグはローズの方(・・)に話掛けた。  ローズは朝食も食べずに、二日酔いの薬を飲んでいる。 「ローズちょっと付き合って? リリィとちがってどうせ暇でしょう?」  確かに……いつも忙しそうに駆け回っているリリィに比べ、こいつは一日中頬杖ついてぼーっとしているだけだ。  日が沈むと酒場に出向き、大はしゃぎ。 「……ばれた? 日暮れまでなら空いているわよ」  今夜も飲む気だな……。 「そんなに時間掛かんないわ……町に行くだけだから」 「オッケー」  ローズは、メグには素直な態度をとる。 「ローズ、それなら帰りに魚買ってきてちょーだい!」  キッチンから、リリィが声を上げる。 「はーい……」  ローズは、やる気なさそうに返事をした。  俺とアヒル、リリィ、ミネルバといったいつものメンツにローズを加え、メグの買い物に同行する。 「王家の婚礼の儀の慣わしで、姫は剣を王子は首飾りを、相手に贈ることになっているの」  町に行く道すがら、メグは後ろを振り向き話し出す。 「それでね、鍛冶屋さんに剣を頼んでいたの……まだ途中だけどデザインを見て欲しいとのことなので……」 「マーガレット様が足をお運びにならずとも、持ってこさせればよいではありませんか?」  なぜか一緒にいる護衛の男が会話に入ってくる。 「鍛冶屋さんも、お忙しいでしょうから……」  メグは困った表情を浮かべて返事をする。 「あんたも、分からない男ねぇ?」  ローズは、護衛の男に向かって言う。 「町に繰り出したい言い訳に決まっているでしょう? ったく何年側に使えているのよ?」  そう言われ護衛の男は黙ってしまう。  この男も、ローズたちと昔馴染みのようだった。 「で、なんで付いてくんのよ?」  ローズは、冷たい視線を護衛の男に向ける。 「……仕事ですから」 「私が付いているんだから、メグの身に万が一なんてないわよ?」 「仕事ですから」  男はその言葉だけを繰り返す。 「堅物ね……」  ローズは、諦めたようだった。  俺が二人の会話を見ていると護衛の男と目が合った。 「自己紹介が遅れましたな……私はベアスキン・ロビンソン……ベアとでもお呼び下さい」  ベアは、胸に手を当てて挨拶をしてきた。 「俺はリボン……よろしくな」  彼は、前を見ながら俺に話し掛けてくる。 「魔導師は実年齢よりも若く見えると聞いたことがあります」 「なにが言いたいんだ?」 「あなたはきっと見た目よりも、実年齢は高いのではありませんか?」  実年齢じゃなくて、中身が30才だけどな……。 「そう見えるか?」  俺はベアに目を向ける。 「失礼なことを言ってしまったかもしれません……申し訳ない」  彼は首を横に振り、丁寧に頭を下げた。 「言動、行動、考え方どれをとっても、年相応に見えないものでしたから……つい」 「どう捉えるかは、人それぞれだ」  坂を下り、繁華街へ進む道とは反対側に進む。  街道から逸れた道に入り、丘を登ると道行く人の数もまばらになり始めた。  カーン、カーン、カーン――。  やがて、あちらこちらから、鉄を叩く音が聞こえてきた。 「ここは鍛冶屋通りといって、名前の如く鍛冶屋がひしめき合っているわ」  アヒルが説明してくれた。  通りから中を覗くと、真っ赤に燃える炉の前で、男が汗だくになりながら鉄を叩いている。 「この国の武器と鎧の殆どが、ここで作られているわ」  壁に並べられた剣や斧を見ていると、たまには剣も使いたいななんて思ってしまう。  転職しようかな……。  メグは、中でも古めかしく、小さな鍛冶屋ののれんを潜った。 「ごめんくださーい」 「はーい」  てっきり強面の男が姿を現すと想像していたが、出てきたのは小学生くらいの少年だった。  炉に火は灯っていなく、少年のほかには誰もいないようだった。 「こんにちわ、パパはお留守かな?」  メグが少年に声を掛ける。 「おとうちゃんは、朝出かけた」  少年は椅子に腰掛け、落ち着き無く足を前後に揺らす。 「いつ頃戻るか聞いてる?」  少年は首を横に振る。 「鉱山に行くって言ってた」 「材料を取りにでも行ったのか?」  俺も話しに入る。 「普通は石屋が材料を手配するわ……鍛冶屋自身が鉱山に足を運ぶなんてことはまずないと思うけど」  アヒルが答える。 「ねぇ、鉱山ってもしかしてクリスタルマイン?」  ローズが子供に問い掛けた。 「うん……たしか……」  俺はアヒルと目を合わせた。 「その場所、朝会で新種のモンスターが出たって言ってたよな?」 「その件は私も聞かされております」  メグは言った。 「確か、まだ調査兵団も派遣されていないはず」 「マーガレット様……だめですぞ?」  ベアは、メグの心を読んだようにそう告げる。 「この一件は、調査兵団を派遣いたしますので……」 「ベアさん、聞いて下さい……」  しかし、メグは食い下がる。 「伝承によると王女は苦難を乗り越え伝説の剣を手にし王子に手渡した――とあります」 「それは、おとぎ話……」 「私は自分のすべきことを人に頼んで、何もせず偉そうに待っている――なんてことはしたくないんです」  メグは、真剣な顔でベアを見つめる。 「……それなら、調査兵団を組んでから、それに同行してください」 「私には、ベアという頼もしい友人がおります……私の身の安全は彼が保証してくれます」  その言葉を聞いて、ベアは目を逸らし、その瞳を潤わせる。 「……わ、私の力など取るに足りません……」 「そんなことはありません」  メグは首を横に振る。 「10年もの間、毎日欠かさず私の身を気遣っていただき……本当に感謝しています」 「なぜ今、そのようなお言葉を……」 「このような時でなければ、照れくさくて言えないではありませんか」  メグは、にこりと微笑んだ。 「それに、新しくできた友人もおります」  メグは、俺たちにも笑顔を向けた。  俺は黙って、ベアの肩に手を当てる。  彼は、頬に涙を伝わせ、これ以上何も言えなかった。  彼女には人を引きつける魅力がある。  言動、行動ひとつひとつが、その要因なのだろう。  これが、上に立つ者の器なのだ。  彼女の元になら、使えてみたいとそう思えた。 「帰り遅くなるなら、リリィに連絡入れておかないとね」  ローズが言った。 「どうすんだ? 俺が飛行モンスターに変身して伝えてこようか?」 「いいのいいの……そんな古典的なことしなくて」  そう言うと、ローズは鞄から金属製の装置を取り出した。  手に持てるサイズで、それはまるでトランシーバーのような形状をしていた。  ローズは、アンテナを伸ばす。 「ちょっとこれ持ってて……」  俺は、ローズからその装置を受け取った。  ファンタジー世界に携帯電話?  装置には円状のへこみがある。  まるで手のひらサイズのスピーカーのようだった。 「なにこれ?」  ユリルは、興味津々で俺の持っている装置を覗き込む。 「魔導具か?」  ミネルバも、不思議そうに見つめている。  ローズは、手のひらを自分の正面に突き出し詠唱する。 「新生グリモワールⅠの章・情報魔法空気振動伝達(エアコール)42.195」  ローズを見ていたが、詠唱後特に何かが起きたようには思えなかった。 「もしもしリリィ? 私……」  ローズは、俺たちに目を向けずまるで独り言のようにしゃべりだした。  すると、俺が手にしていた装置が震えだす。 『どうしたの?』  そして、その装置から声が聞こえてきた。  声の主は、リリィのようだ。 「びっくりしたでしょう? それは空気振動受信機(エアレシーバー)と言って、遠くの人と会話ができるのよ」  俺は、ローズに空気振動受信機(エアレシーバー)を渡した。 「トラブル発生よ……」  ローズとリリィは、会話を続ける。 「さっきの魔法は、空気を振動させて言葉を飛ばすの……最後に言った数字は周波数ね」  アヒルが続きを説明してくれた。 「あの装置は言わば受信機で、特定周波数の音波をキャッチして声を発するの。中には魔導回路が内蔵されているわ」  無線のような仕組みか。 「地面を伝わせる方法もあるわ……この町は広いから、みんな空気伝導の方を使うけど」 「うん……じゃあそういうことだから……帰り遅くなるわ」 『わかった、気をつけてね』  ローズは、リリィとの会話を終えた。 「その魔法便利だな、今度教えてくれよ」  俺はローズに言った。 「魔法書が書庫にあるから、好きに読んでいいわよ」  そうか、もう1ページずつ探さなくていいんだよな。  俺たちはタクシー馬車を拾い、北の鉱山クリスタルマインに向かった。  木の生えていない岩山で、所々に巨大な結晶が突き刺さっている。  光が結晶で屈折し、山は虹色に輝いていた。  岩山の麓で馬車を降り、頂上の採掘現場までは徒歩で向かった。  採掘現場に到着すると、ローズは音を上げ座り込む。 「あー……疲れたー……足くたくたー」  採掘現場の洞穴の前には、頭を抱えてうずくまる、がたいのよい男がいた。  メグは、その男の元へ向かった。 「親方さん……」  男はその声を聞いて、慌てて顔を上げた。 「マ、マーガレット様!? どうしてここに……」 「モンスター出現情報がありましたから、心配できたのです」 「わざわざいらっしゃるなんて……」  親方と呼ばれた男は、どうして良いか分からないといった感じで、その場を行ったりきたりしている。 「何があったか説明してくれ」  俺は、親方に問い掛けた。 「はい……石屋からクリスタルの納品が無いから、不審に思って採掘現場まできたのです。そうしたら、中にモンスターがいて……」 「やはり、この中にいるのですね?」  メグは、洞窟に顔を向けた。 「私は、ちょっと休憩……モンスターはあんたたちに任せたー」  ローズは、俺の背中を叩く。 「まったく……」  ユリルとミネルバもいるし、並みのモンスターなら負けないだろう。  俺を先頭に洞窟内に入った。  中はランプが灯され、松明を付けずとも視界が確保されていた。 「おーい……モンスター……どこだー?」  ピチャリピチャリと、天井から雫が落ちる。  一本道を奥まで進むと、壁や地面が光輝いている。 「小さいけど、クリスタルよ」  アヒルが口を開く。 「透明度の高い上質なものだと、メインストリートの土地が買えるほどの値で取引されるわ」 「なに? それじゃあ、ここは宝の山じゃねーか」 「そうよ、だから採掘するには許可がいるの」  俺は小さなクリスタルの破片を拾い集め、素速くポケットにしまった。 「国に採掘量の申請が必要で、それを行わないと罰せられるわ」  くっ……。  俺はポケットの中身を、地面に捨てた。 「見て!」  ユリルが声を上げる。 「なんだよ、捨てただろう? こっそり持ち出そうなんて思ってねーよ」 「はぁ? 何言ってんの? あれよあれ」  ユリルは、俺ではなく洞窟の奥を指差している。  そこには、サッカーボール二個分ほどのクリスタルの集まりがあり、ゆらゆらと上下左右に動いていた。 「クリスタルが動いている!?」  いや、よく見ると違う。  それは、生命を持っている。  クリスタルのモンスターだ!  体中に小さなクリスタルを生やし、ボリボリとクリスタルをかじっていた。  クリスタルのモンスターは、振り返ると言葉を話した。 「あっちへ行けー!」 「喋るのか!?」 「かなり高い知能があるようね」  アヒルが言う。 「このクリスタルは僕のだ! 誰にもあげないから」  洞窟の通路は狭く、このモンスターが道を塞いでいた。 「どうやら倒さないと先に進めないようだな」  チャキーン――。  ミネルバはレイピアを手に取った。  シュンシュンシュンシュン――。  高速の突きがモンスター目がけて跳んでいく。  ピキーン――。 「な!? にぃっ」  レイピアは中央部分から折れてしまった。 「わたしに任せて」  ユリルが前に出る。 「グリモワールⅢの章・造形魔法陶芸岩ノ巨像(メイクゴーレム)」  洞窟内に収まるような、人と同じサイズの岩の巨像(ゴーレム)を作り出した。  石の拳を、モンスターに向かって繰り出した。  ガラガラガラ――。  その拳は、モンスターに当たると音を立てて崩れた。 「そんなぁ……ウソでしょう!?」 「それなら、俺の風魔法で……」  俺の詠唱をアヒルが制止する。 「ダメよ! この狭い洞窟内でそんなの使ったら、みんな怪我するわよ?」 「そうか……」 「醸造竜ノ吐息(ドラゴンブレス)もだめよ」  なら、変身するしかねーよな。  俺は腰に手を当てて、マジカルステッキを天高く付きだした 「へん――、しん――」  俺の体は、光に包まれ宙に浮いた。  魔法使いプリティ☆リボンこと吉野克也は、ステッキのスイッチを入れることで、モンスターに変身するのだった。  着ていた服は消え裸になる。 「おぉっ」  親方は、嫌らしい目で俺を見ている。  恥ずかしい……。  そして、煙に包まれた。  ぼわん――。  今回は、何のモンスターに変身したのだろうか?  まるで、鎧のようなこの体――。  頭には、すらりと伸びた大きな角――。  即ちこれは、カブトムシ――。  俺は腰を落とし、片手片膝を地面に付ける。  そして、中腰の姿勢のまま、モンスターに突っ込んだ。 「カブトムシフットボールタックル!」  ドン――。  俺の体は、モンスターに当たった。 「いてーっ!」  しかし、びくともしない。  体当たりを仕掛けた俺の方がダメージを受けている。 「くそっ! いったいどうすれば……」 「私にやらせてください」  メグが前に出た。 「マーガレット様、危険です」  ベアが止めに入るが、構わずモンスターに近づいた。 「モンスターさん、お騒がせしてごめんなさい」  メグが話し掛けると、モンスターは彼女の顔を見上げる。 「どうしてもクリスタルが必要なの……一つだけいただくことはできませんか? お願いします」  メグは深々と頭を下げた。 「なっ! モンスターに頭を下げるなど」  ベアは、慌てふためいている。 「やーだよー!」  モンスターはそう言って、再びクリスタルをかじりだした。 「おのれ! マーガレット様が頭まで下げたのに、モンスターの分際で!」  ベアは腰の剣に手を掛ける。 「ベア!」  剣を抜こうとするベアを、メグが制した。 「今日は、戻りましょう」  俺たちは、メグに続いて洞窟の出口に向かう。  あの強度、いったいどうすればいいんだろうか?  洞窟を出ると、入り口でローズがいびきを掻いて寝ている。  グー……ガー――。  こ、こいつは……。 「起こすことねー……ほっといて帰ろーぜ」 「ちょっと!」  アヒルが怒り出した。  洞窟の外は騒がしく、俺たちが洞窟に入っている間に、人が集まり出していた。  鉱山夫たちのようで、それぞれ手にピッケルを持っている。  10人ほどの男たちは、揃って洞窟の中へと入っていった。 「何をするつもりだろう?」  俺たちは気になって、再び洞窟内に足を運ぶ。  カーン、カーン――。  甲高い音が洞窟内に響き渡る。  見ると、男たちがモンスターを取り囲み、ピッケルで叩きまくっていた。 「やめろー! あっちいけー」  モンスターは頭を押さえ蹲っている。 「お前がいると仕事にならねーんだよ!」 「早くくたばれ!」  男たちは罵声を浴びせかける。  メグはそれを見て駆け出していった。 「もうやめてください! この子だってここで生きているんです」 「なんだこのアマ!」 「すっこんでろ!」  男の一人がメグを突き飛ばす。 「マーガレット様に向かってなんてことを!」  ベアが駆け寄るより先に、俺が突っ込んだ。 「カブトムシフットボールタックル!」 「ぐわっ」  男たちは、吹っ飛び壁に激突した。  地面に倒れて気を失っている。 「メグ様、お怪我はありませんか?」  ベアは心配そうにメグの手をとる。 「大丈夫ですよ」  ガチャッ、ガチャッ――。  足音を立てながら、モンスターがメグに近づいてきた。 「危ない! マーガレット様私の後ろに!」  ベアは、メグの前に立ち塞がった。  しかし、メグは自分の方からモンスターに近づいていった。  そして、モンスターの前で屈みこむ。  モンスターは、自分の身の丈よりも大きなクリスタルを抱えていた。  そして、それをメグに差し出した。 「くださるの?」 「うん……友達」  モンスターは、そう発した。  メグはにこっと笑い、言葉を返す。 「はい! お友達です」 「モンスターの心まで動かすとは……なんというお方」  ベアは、その光景を見て涙を流していた。  モンスターを倒すことばかり考えていたけど、俺がゴブリンと仲良くなったように、人とモンスターが共存できる道もあるのかもしれないな。 ---------- ⇒ 次話につづく!
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