プロローグ 『観測者と更新者 -はじまりの観測- 』

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プロローグ 『観測者と更新者 -はじまりの観測- 』

 その声色(こわいろ)は、慈愛を帯びているようで、酷く無機質で乾燥しているとも感じられた。  淡々と必要な事柄(ことがら)だけを語り、多くは、語りたがらない。  否、語れない。語る事が出来ない。  彼は、彼女は、『観測者』であるのだから――――。  貴方、あるいは、その誰でもない誰かは、『観測者』から、このように告げられる。 「観測点Pより観測を報告します。実行点Qが観測されました」  その誰でもない、誰かとは、貴方でもあり、誰でもない。  だが、その誰かに呼称を与えるべきだ。 「焠埼篥瑛(にらさきりきえ)。更新を開始して下さい」  男性とも女性とも、とられる響きの名の、()。  焠埼篥瑛は、眠りの中に居る。  『観測者』の言葉や意思は、彼の霊的な核とも言うべき箇所へと、発信された。  焠埼篥瑛とは、非常に曖昧な存在で、一点の光。あるいは、空間に干渉する糸のような光の線である。  彼は世界から、そう観測されている。  そして、今まさに、彼に世界から役割を与えられた。  『観測者』と(つい)()す、『更新者』という役割を――――。  焠埼篥瑛は世界から、あるいは宇宙から観測される、一粒の砂にも満たない些末(さまつ)な存在であり、また、それらは星の数ほど無限にほど近く()って、それらの中から無造作に選ばれ、『更新者』となる事を強制された。  『観測者』(いわ)く、貴方が見ている現実、生きている日常は偶然によって形成され、幾度となく誤っては、連綿(れんめん)(つむ)がれ、更新による、試行錯誤の末の産物である、と()う。  同時に、貴方でもあり、誰でもない、焠埼篥瑛が生きている世界は、慣れ親しんだ日常も、また、『観測者』の云う、前述の通りの解釈とされる。 最後に。 『観測者』と同列の存在に選ばれた、焠埼篥瑛の日常は、これから大きな変化を続けてゆく――――。
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