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第一章 終幕『日常Q-qualify 解:資格と適任-』
実行点Qに存在する『更新者』である、焠埼篥瑛、すなわち、キリエとなった存在は、実行点Qを更新し、実行点Rへと繋がる、実行線Qを形成した。
そこで、『観測者』は、観測点Pに居る状態で、それを観測し、彼自身もまた、実行線Q上にある、観測点Qへと、観測地点を移行した。
つまり、『観測者』は、キリエと、あの時、あの空間で、実行点Qの更新に成功した、その事実だけを報告したに過ぎない。
では仮に、もしも、実行点Qが更新されず、現在の日常となった、実行線Qが形成されなかったとしたら――、『観測者』は、途切れてしまった実行線Q、キリエの視点から見える、架空の実行線Q上の、同じく、架空の観測点Qへ移動し、次点となる実行点Rに存在する、別の『更新者』とコンタクトを取る事と相成る。
この繰り返しによって、世界は、日常は、連綿と、継続されてきた。
キリエが『更新者』となったのは、これまでにAから始まり、Qに至るまで、実行点の更新に失敗した『更新者』たちが居て、実行点の更新に成功した位置が、偶然、実行点Qだったに過ぎない。
さて、それでは、今回、実行点Qの更新に成功した『更新者』はキリエだ、では、実行点Rにおける『更新者』は誰なのかというと、それはもまた――キリエという事になる。
何故ならば、彼は、『更新者』という資格を得て、更新の成功を果たした適任者である、と『観測者』が、そう、判断を決めたからだ。
* * *
最後に紐解いておく事実がある。
キリエの日常が変わったのは、何故か。
本来、大きく変わることの無い日常を過ごすはずだったキリエは、キリエ本人が『更新者』として、実行点の更新を行い、それを『観測者』が観測を行ったことによって、日常が、あるいは、世界が改竄ないしは更新の反映が為された、という結果である。
ただ、今回における更新は、キリエが"自分の名前が嫌いだ"、という、事実を、"自分の名前が好きなる"、と更新したことで、彼にとって、都合のいい日常に好転した、という、ただの偶然の産物、という側面も持つ。
それもまた、彼に資格が与えられ、適任であったからこそ、なのかもしれないが、それを確かめる術を、『観測者』もおろか、誰も知らない。
そして、更新という行為に、成否の判定があり、失敗することもある、という事実、また、自分の都合のいい日常に変わるとは限らない、という事実を、キリエはまだ――知り得なかった。
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